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医師・医療関係者のみなさまへ

第155回日本医師会臨時代議員会

府医ニュース

2024年4月24日 第3070号

松本会長、次期会長選出馬へ
様々な取り組みの推進誓う

 第155回日本医師会臨時代議員会(定数376人〈欠員3人〉/柵木充明議長〈愛知県〉)が3月31日、日医会館で開催された。当日は代議員362人が出席し、令和6年度日医事業計画および同予算が報告された。さらに、都道府県各ブロックから19題の代表質問がなされ、診療報酬改定や医療DX、組織強化など多岐にわたる話題について日医執行部が見解を示した。

 柵木議長が定足数を確認後、議事運営委員会委員8人(近畿からは髙橋健太郎代議員〈滋賀県〉)が紹介された。また、副議長である太田照男氏(栃木県)が3月21日に逝去したことが伝えられ、黙祷が捧げられた。
 引き続き、松本吉郎・日医会長があいさつ。令和6年能登半島地震に触れ、犠牲となった方々に哀悼の意を表し、被災者にお見舞いの言葉を述べた。その上で、日医では都道府県医師会協力の下、約1千チームのJMAT(日医災害医療チーム)を派遣し、現地での救護活動を展開しているほか、全国から5億6400万円超の支援金が寄せられたと報告した。
 また、組織強化に関しては、前年比で2172人増の成果を上げたと強調。組織率は51.25%で20年ぶりに上昇したと加えた。一方で、会員に定着させることが重要であり、「全国の医師会が一体となり進めることが大切」と協力を呼びかけた。さらに、新会員情報管理システムについて言及。来年3月末までに全医師会への導入と移行完了を目指していると語った。
 6年度診療報酬改定は、極めて難しい改定だったと回顧。財務省から診療所の診療報酬単価を5.5%程度引き下げ、本体部分は1%の引き下げを求められるという厳しい状況の中、結果として本体改定率プラス0.88%となったことに理解を求めた。医療費の財源は、①税金による公助②保険料による共助③患者自己負担による自助――の3つのバランスを取ることが重要であり、自助のみを増やすことはあってはならないと断じた。
 最後に、日医会長に就任以来2年間、会務運営方法等の再構築、厚生労働省をはじめとする関係省庁との連携、政府・与党とのより強固な関係構築に努めてきたと明かし、地域医師会との連携にも手応えを感じていると力説。来期も引き続き日医会長として、様々な取り組みを一層強力に推進していきたいと訴えた。

安田・石川県医師会長、被災地支援に謝辞

 安田健二・石川県医師会長が登壇。能登半島地震に対する全国からの支援に謝意を表するとともに、支援金は被災した医療機関、医療体制の復旧に活用すると言明。被害の大きかった能登半島北部でも避難していた方が徐々に戻りつつあるとして、1日も早い復興に向け努力していくと語った。

令和6年度事業計画
同予算を報告

 6年度事業計画および同予算について、角田徹・日医副会長が報告した。これに対して藤原秀俊・財務委員会委員長(北海道)より、1月25日に開催された本委員会において、事業計画案および同予算案について審査の上、適正であることを確認し、承認した旨が伝えられた。

ブロック代表質問

 その後、都道府県各ブロックからの代表質問が行われ、19題の質問に日医執行部が応じた。
 近畿ブロックからは、上田朋宏代議員(京都府)、岡林孝直代議員(兵庫県)、安東範明代議員(奈良県)の3人が質問に立った。

保険診療外での受益者負担の可能性
茂松・日医副会長が答弁

 増田幹生代議員(東京都)は、他業種では値上げによる価格転嫁によって賃上げなどが行われており、医療・介護業界からの人材流出が加速していると指摘。保険診療外で受益者負担を求めるなど、健康保険制度の外に議論や、自由な意思決定の場を作る可能性などを問うた。
 これに対して茂松茂人・日医副会長が答弁。物価や人件費の高騰に伴い、保険料や税収も上向くため、税収の上振れ分を医療費の財源として活用すべきと説いた。また、物価変動は国民全体に影響する問題であり、すべての業界で問題解決に取り組むためにも補助金による対応が有効との見解を示した。

診療報酬改定、看護学校運営など
高井会長、松山代議員が関連質問

 高井康之・大阪府医師会長は、診療報酬改定やセルフメディケーションに関する代表質問に関連して質問した。診療報酬改定では、生活習慣病管理料に関する算定方法に疑義を呈し、さらなる包括化につながらないよう釘を刺した。
 あわせて、現在問題となっている機能性表示食品については、エビデンスがしっかりと検証されていない点を国民に周知していく良い機会だと発言した。松本・日医会長は、平成27年に制度が開始された当時から疑問を投げかけていたと言及。消費者庁や厚労省を含めて今後の対応を検討したいと回答した。
 松山浩吉代議員(大阪府)は、看護師不足に関する代表質問に関連して発言。看護師等養成所の運営には実習病院の確保が極めて重要だと指摘し、実習病院が確保できないために閉校を検討する養成所もあり、実習要件の緩和などを要望した。
 これに対して釜萢敏・日医常任理事は、実習病院の確保が困難な点は厚労省も理解しており、シミュレーターや動画などを活用しつつ、実習の実を挙げる方向に転換していると説明した。

■近畿ブロック代表質問
日本医師会の会員増強・組織強化の取り組みへの提案について
上田 朋宏 代議員(京都府)

 上田朋宏代議員(京都府)は、若手医師はキャリアアップの過程で都道府県、郡市区を越えて異動することが多く、それに伴い医師会入会が中断してしまうケースが散見されると指摘。これは異動手続きの煩雑さが一因であるとして、会員資格の継続や若手医師会員へのフォローアップの強化を含めた日医の今後の取り組みを質した。

新会員情報管理システムで円滑な入会手続きを目指す

 釜萢敏・日医常任理事が答弁。若手医師会員は日々の診療と自己研鑽に努める中で、医師会に接する機会は多いとは言えないとして、各地域医師会が若手会員を対象とした企画を積極的に設けるなど様々な接点を持つことが重要であると説述した。また、会員資格の継続については、10月末に新会員情報管理システムを公開予定であると明かし、利便性の高い運用と入会・退会手続きを図っていくと今後の展望を語った。

セルフメディケーションと医薬品の安定供給について
岡林 孝直 代議員(兵庫県)

 岡林孝直代議員(兵庫県)は、国の医療費削減適正化を目的としたセルフメディケーションやスイッチOTC化の推進に懸念を表明。診療の現場では医薬品の供給不足が深刻化していると述べ、必要不可欠な薬剤がスイッチOTC化されることにより供給不足に拍車がかかる恐れがあると指摘した。

国が医薬品の提供状況を把握

 宮川政昭・日医常任理事が答弁。医療用医薬品と同等ではないOTC医薬品を医療現場に提供することは困難であり、医薬品の供給不足はすぐに解消できないとして理解を求めた。一方で、国は平時より医薬品の提供状況を把握し、有事には必要に応じた医薬品の増産要請等ができるよう感染症法ならびに医療法を改正し、4月より施行されると言明。今後の状況を注視していくと伝えた。

調剤薬局全国チェーンによる零売問題について
安東 範明 代議員(奈良県)

 安東範明代議員(奈良県)は、医療用医薬品の一般向けの広告が禁止されているにもかかわらず、奈良県内の調剤薬局チェーンにおいて広告を掲げ、零売を開始する事案が発生したと報告。医師の診断がなくても医薬品を購入できると受け取れるような広告であり、深刻な問題だと捉えていると語った。その上で、今後も不適切な零売が全国各地で繰り返されることに懸念を示し、日医の適切な対応を求めた。

本来の目的から逸脱した零売は問題

 宮川政昭・日医常任理事が答弁。零売問題は本来の目的から逸脱した処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売であり、重大な問題だと認識していると同調した。厚生労働省の検討会では、令和6年1月に医薬品販売制度のあり方や零売への対応の方向性が取りまとめられたと報告。すでに零売専門薬局チェーンは撤退を表明するなど、業態転換の動きがあると説明した。

■傍聴記
新たに感じた日医の息吹

 今年の日本医師会臨時代議員会は、会長あいさつの冒頭、能登半島地震の話題で始まった。大阪で知るJMAT(日医災害医療チーム)よりも規模が大きいのは当然であるが、総勢約1千チーム、1万2千人にも及ぶ医療従事者派遣活動の国民へのインパクトは、非常に大きいと感じた。並行して医療機関等の早期復旧のため、補助金や医療・介護従事者の確保等の活動も行っている。
 この国家的支援活動に対して、石川県医師会の安田健二会長は、災害後の混乱に言及されるとともに、日医の活動に対して謝辞を表明された。また多忙な中にも、今回の経験を今後の災害対策にいかす展望も述べられた。
 このような活動は新型コロナウイルス感染症への医療機関対応と相まって、日医の存在感を十分描けているだけに、物価高騰の折、期待通りではなかった診療報酬増額への思いは、複数の代議員の発言に滲み出ていた。財務省を意識した苦渋の答弁ではあるが、茂松茂人・日医副会長の言動は非常に印象深かった。国民皆保険制度であるが故に、苦境下でも自由診療的行為は認めない。医療は国民に対して平等であるべきで、患者自己負担を上げないという覚悟を示し、日医は補助金や税制の政治で勝負する強い意志を示された。
 本代議員会のもう一つの驚きは、本年10月末から開始される日医の新会員情報管理システムのお披露目である。各医師のマイページへの個人情報登録で、異動時に地区医師会の入退会が、自動的に各地区医師会に通達されるシステムである。国内2カ所のクラウドサーバーで災害時の安全を確保する。卒後5年を過ぎた行方が把握できない医師の動向を、各医師会が確認できるのである。全国に広域の網を張る方法論は非常に興味深い。来年の新研修医ウェルカムパーティーから、大いに利用できる優れ物と思われる。
 全体を通じて会長あいさつのみならず、地域医療を面で支える文言が多く寄せられた。急逝された門田守人先生の後を継ぐ門脇孝・日本医学会長も、面と連携する研究活動を強調され、医学・医療界が一丸となって地域医療構想を支える意気込みをあいさつの中で示された。
 働き方改革やかかりつけ医機能の推進を強力に推し進める、日医の新しい年度の息吹を感じた。(晴)