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医師・医療関係者のみなさまへ

本日休診

祝祭はない

府医ニュース

2024年3月6日 第3065号

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックの初期、2020年の最初の緊急事態宣言の頃、カミュの「ペスト」を読みました。
 その小説では、ある街で猛威をふるったペストは、約1年で潮が引くように終息します。ペストの流行中閉じられていた街の門が開かれた日、人々は街頭に繰り出して喜び騒ぎ、鐘が打ち鳴らされ、祝砲が轟き、花火が打ち上げられます。まさに祝祭です。私は、このシーンが強く印象に残りました。
 その頃、新型コロナのパンデミックがこれからどうなっていくのか、全く予想ができませんでしたが、このシーンの印象が強かったためか、私は何となく、コロナ禍もこのように終息し、解放感にあふれた祝祭のような日が来るのではと想像していました。今から思えば、全く甘い考えでした。
 確かに流行がオミクロン株に替わってからは軽症化し、ワクチンが開発されて接種が進み、簡便な検査法が普及し、一応治療薬もできました。昨年5月に5類感染症に指定変更となってからは、これまで中止になっていたイベントが再開され、旅行などによる人の往来も増えています。テレビで日々の感染者数を発表しなくなったので、患者さんの中には、「コロナってまだあるのですか?」と言う人もいます。
 コロナはあります! うちのような小規模な診療所でもコロナ陽性者は継続的に出ています。一般の患者さんの診察をし、在宅や時には救急にも対応しながら、感染対策をして発熱患者さんも診る日々です。すべてが一挙に解決するような「祝祭はない」と覚悟して、このいつ果てるとも知れない状況を「倦まず、たゆまず、諦めず」に続けていくしかないとこの頃では思っています。(瞳)