TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

時事

医学生と語る会

府医ニュース

2024年2月28日 第3064号

ワールドカフェ体験記

 1月12日に開催された「医学生と語る会」は、今までと違った雰囲気で始まった。平成20年度から故・片桐修一先生が始められ、宮越一穂先生に受け継がれてから16年間も継続してきたのは、各ブロック勤務医部会役員の努力によるところが大きい。これまで向かい合って配置されたテーブルを囲んで、医師会関係者と学生が話し合う形式を取ってきた。司会者が学生を指名し、話題を引き出しながら進行する。しかし今年はガラリとイメージチェンジし、ワールドカフェ形式で始まった。テーマに関して相談に乗る医師会関係者2~3人が、数個のテーブルの片側に分かれて座り、対側の半分は同数の学生が座れるよう配置された。面接のように見えるが、学生側に緊張感は全くなかった。また、医師会関係者も学生と同じテーブルに肩を並べて座るが、どちらが面接されているのか分からないほど平等感があった。このテーブル配置に大きな心理的効果があると思われる。
 ワールドカフェ方式は、カフェのようにリラックスした雰囲気の中で、少人数で対話し意見やアイデアを共有する手法である。しかし、本当に学生から自由な発言を引き出し、相互理解を深め一体感を醸成する効果があるかどうかは半信半疑で、緊張感があった。対面形式に新しい風を吹き込むかどうか、今回企画された宮越先生はテーブルに座す一相談員として挙動された。我々のテーブルに割り当てられたテーマは「日本の医療の今後および医師のライフプランについて」だった。このテーマに関して医学生がどのように考えているか、医師会がどのような提案をすることにより医学生がより医師会に興味を持ってくれるかを知りたいと思っていたのである。テーマについては15~20分間話し合うとのことであったが、この時メモを用意していなかった。今回私は司会でもなく、会の成り行きを見学する程度の軽い気持ちであり、メモがないことは気にも止めなかった。しかしメモは必要だ。ワールドカフェは周りの人間に気を使うことはない。それぞれのテーブルがそれぞれの会話をしているから、気兼ねすることはないので、学生もすごく気を許してくる。当然こちらも同様の気持ちになってくるから話は弾む。どんどん自分の意図しない方向へ話が進んでしまうと、振り返ってみると一体なぜこのような話の内容になったのか、会議の趣旨は一体何だったのかを見失う。2対2、3対3のテーブル配置にも意味がある。相手との会話に沈黙が支配した時、横に座っている人が助け舟を出してくれると、ちょっとしたことで会話が回りだすことがある。また、完全に話の主導権を他のメンバーに手渡すことにより、再考する自分の時間が持てるのである。この時メモが取れる。自分が言ったことや相手の言ったことを文字化することにより、再考し軌道修正する機会を設けるのがメモであり、話をより発展させる一呼吸にもなるのである。
 ワールドカフェ方式の最大の利点は非常にフランクな気持ちで話ができる点である。学生時代に自分自身が戻ったような感覚になったのも不思議な魔力があった。しかし、方向性のない結論に導かれることもありそうな感じがした。20分以内でテーブルを変わるという方法論にも、話を散漫にさせないという意味があると思う。2時間という時間では半分の学生しか対話することができなかった。しかし会の趣旨を完成させるのに、開催者はすべての参加者と対話する必要はなく、同様のテーマのテーブルを複数個設けることにより、参加者が2~3個のテーブルを移動するだけで用意したテーマを一巡できるから、会議の規模を大きくすることが可能である。全体討論で2~3個のテーマの話題をシェアすれば良いのである。
 ワールドカフェ方式が全面的に良いかどうかは試行錯誤してみる必要がある。何でも一長一短はあるので、一つの選択肢として位置付けるのが良いと思われる。(晴)