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時の話題

航空の安全と医療安全の類似性

府医ニュース

2024年2月21日 第3063号

日本と米国の違い

 1月2日、羽田空港で着陸してきた日本航空機(以下、JAL)と離陸待機の海上保安庁の航空機(以下、海保機)が衝突し、海保機の機長を除く乗組員5人が死亡する事故が起きた。不幸中の幸いとも言えるが、JALの乗客や乗組員は全員無事であった。
 翌日には警察庁が捜査本部を立ち上げ、業務上過失致死傷容疑で捜査を開始すると発表したが、航空安全推進連絡協議会が「最も優先されるべきは事故調査であり、刑事捜査ではない」との声明を出し、国土交通省外局の「運輸安全委員会」が優先的に調査を開始した。主たる原因は、海保機が停止位置を越えて滑走路に侵入したことだが、なぜなのか? 海保機の機長、JALの機長、管制官の三者の人為的なミスが関係したと考えられているが、環境要因も複雑に絡んでいた。例えば、①世界で3番目に混雑する空港②夜間で目視が困難③管制官は海保機の滑走路への侵入に気付かなかった④管制官は侵入を示す滑走路の黄色表示・飛行機の赤色表示に気付かなかった⑤滑走路の停止線の赤色表示が機器の更新で整備中⑥「ナンバーワン」の用語の適否など。海保機の機長が「ナンバーワンを離陸許可と誤認した」ことが本人への聴取で分かっているが、管制官の見落とし、JAL機長の目視に問題がなかったか、今後の調査が待たれる。
 運輸省が1974(昭和49)年に航空事故調査委員会を設置した時、警察庁と「覚書」を交わし、事故調査委員会は鑑定機関として捜査に協力するほか、調査報告書は嘱託鑑定書として捜査機関に提供されることになっている。この調査報告書は、刑事、行政、民事の責任追及で使用されるが、刑事責任についてはさらに警察庁が独自に捜査する。日本は53(昭和28)年10月にICAO(国際民間航空機関)に加盟している。ICAOは「事故調査は、将来の安全性の向上のみを目的とすべきである」として、調査と捜査の分離を求めている。しかし、国内の実情はそうではなく、ICAOに「相違通告」を出している。そのため日本では原因究明の調査に「萎縮効果」が働き、十分な調査ができるか危惧される。米国では、NTSB(国家運輸安全委員会)が事故調査報告書をまとめる。米国では、悪意や故意でない限り、個人の刑事責任は問われない。
 米国では医療事故についても、悪意や故意(米国の「重大な過失」)でない限り、単純なミスでは刑事責任は問われない。むしろ、行政責任、民事責任で懲罰的損害賠償請求がなされる。日本では、わずかな注意を怠ったために重大な結果を招いた場合、「重大な過失」となり、刑事責任が問われる。いわゆる誤薬や抗がん剤の過剰投与などの単純なミスである。善意の行為者が何らかの事故に関わった場合、「見せしめのような刑事罰」ではなく、原因分析と再発防止策を講じること、またリピーターに対しては行政処分と再教育が必要と考える。