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医師・医療関係者のみなさまへ

小児在宅医療に関する研修会

府医ニュース

2024年2月7日 第3062号

医療的ケア児の支援に全力

 第8次大阪府医療計画に、医療的ケア児等の在宅療養を支えるための地域医療体制整備や移行期医療の支援体制構築に係る内容が盛り込まれる。こうした状況も踏まえ、大阪府医師会は令和5年12月9日午後、「小児在宅医療に関する研修会」を府医会館で開催。オンライン受講とあわせて約200人が参加した。本研修は大阪府在宅医療総合支援事業の一環として実施するもので、長年にわたり厚生労働省の関連研究事業で代表を務める田村正徳氏(埼玉医科大学総合医療センター小児科名誉教授)が、現状と課題を伝えた。

 開会あいさつで中尾正俊副会長は、医療的ケア児の自立に向けた健やかな成長には、「伴走型の支援が鍵になる」として、府医も積極的に推進すると力を込めた。
 講演の冒頭、田村氏は日本の新生児致死率が低いのは、周産期医療ネットワークによるものと言及。反面、ハイリスク新生児の救命率向上によりNICU(新生児集中治療室)への長期入院が増え、病床不足で母体が危機的状況に陥ることも散見されると述べた。

墨東病院事件が転機

 平成20年に頭蓋内出血を起こした35週の妊婦が、東京都内7箇所の周産期医療センターで受け入れられず死亡した「墨東病院事件」が発生した。これを受けて田村氏は、「重症新生児に対する療養・療育環境の拡充に関する総合研究」でNICU長期入院児の小児在宅医療への移行を提案。厚労省は、全国的なNICU増床推進と補助金対象の拡大・増額等の政策を打ち出した。なお、在宅医療への移行は、医療費が圧縮できる経済的メリットもあると強調した。
 別の研究では、「訪問看護師の介入により、教育機関で保護者の付き添いがなくても安全に人工呼吸管理中の児の医療的ケアができた」と報告。家族の負担軽減以外にも対象児や周囲の児童への教育的効果を示した。その上で、医療保険における訪問看護を提供できる場の「居宅等」に学校や保育施設を含める必要性を説いた。なお、医療型障害児入所施設では、「動く医療的ケア児者の短期入所」の困難さから、令和3年より「見守りスコア」の加点による施設報酬がアップしている。
 田村氏は、在宅医療は家族の負担が大きく、医療・福祉・教育など地域の実情に応じた連携や、コーディネーターの役割が重要だと説示。現在、中尾副会長が委員長を務める日医「小児在宅ケア検討委員会」は、全国に小児在宅医療における連携を呼びかけ、診療報酬改定にも貢献していると報告した。

在宅医療支援に追い風

 令和3年の医療的ケア児支援法の施行は、在宅医療推進への追い風だとの見方を示した。医療的ケア児への支援が「責務」に変わり、学校での受け入れ体制拡充や、家族の付き添いなしで希望施設に通えるように、看護師等の配置を行うことが明記された。しかし、4年度の実態調査を見ると、「体制は発展途上」とした。
 一方で、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震の際に避難所を利用できた医療的ケア児は10%前後。受け入れ対象者を特定する新たな指定福祉避難所の制度が必要とした。3年5月に災害対策基本法等の一部改正により、「避難行動要支援者名簿」および「個別避難計画」作成が市町村の努力義務となったが、医療的ケア児を対象外とする市町村が多いことを問題視した。

医療的ケア児の自立へ

 医療的ケア児の自立には児自身が思いや要求を自己主張できるようになることが重要で、それには施設への短期入所やグループホームの活用が本人や家族にとって有用とした。また、特別支援学校高等部を一般高校と同じ扱いとすることが、大学に進学しやすい制度整備への近道と断言。進学を目指せる環境が医療的ケア児の能力を発揮できることにつながると結んだ。