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集団自決は経済政策?

府医ニュース

2023年2月22日 第3028号

 イェール大学助教で経済学者の成田悠輔氏の主張が現在、物議を醸しており、ニューヨークタイムズでも取り上げられるに至った。「有効な高齢化対策としての高齢者自身の集団自決、集団切腹」という「提言」をウェブ番組で1、2年ほど繰り返してきたのだ。氏は「口にしちゃいけないって言われてることは、だいたい正しい」がモットーで、敢えて「メタファーとして発信した」そうだ。何のメタファーかと言えば、氏の発言を追ってみるに「社会保障制度の縮小」「安楽死の解禁ないし強制」だ。この、長身で見栄えのする少壮気鋭の経済学者は、やがて地上波にも登場しワイドショーでも屈託なく発信するようになった。氏の発言に対し、スタジオ内がしばしば爆笑の渦となることに背筋が凍る思いだ。
 メタファーだからと看過できる問題ではない。例えば、先の参議院議員選挙における参政党候補者の街頭演説では「50代以上の人間は必要ない。50歳以上の人は生きてる意味はない。コロナに罹って高齢者が死んでも、そんなのは役割!」と主張していた。元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏はかつて「人工透析患者は全額自己負担として払えないものは、そのまま殺せ!」とブログに著した。成田氏の主張はこれらに連なるものである。
 少子高齢化は先進国の宿命とも言えるが、それに経済政策の致命的な失敗が拍車をかけた。四半世紀に及ぶ我が国の衰退・凋落を背景に将来の展望を見出せない人々の閉塞感はこういった発言に一気に取り込まれる。被害感情の向く先は、他国や他民族、そして他世代、他職種、身体障碍者であったりする。憎悪から深刻な差別と分断が生まれ、とりわけ社会的弱者に対する過酷な機運が醸成される。第二次世界大戦末期の惨状、優生保護法の成立、そういったものが脳裏に浮かぶ。
 ニューヨークタイムズは成田氏の先の発言に対し、「集団自決という言葉にカミカゼ特攻隊が連想される」と評した。
(猫)