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医師・医療関係者のみなさまへ

時事

治安悪化と孤立する高齢者

府医ニュース

2023年2月15日 第3027号

情報管理に十分な対策が必要

 今年1月に大きく報道された東京・狛江市の邸宅で老女が殺害された一件をはじめ、被害が大阪を含む14都府県に広がっているとされる連続強盗事件。まだ捜査途中ではあるが、警察庁は、同一グループによる犯行と思われる犯罪事件では、去年10月以降に30数人を逮捕したと明らかにした。SNSアプリを使用した遠隔操作により、お互い知らない者
同士が分業し、そして広域で独居の高齢者を狙う手口。それは、「国民の体感治安に直接的に大きく影響を及ぼす(警察庁)」に十分であった。
 この連続強盗事件で留意すべきは、遠隔操作による犯行方法だけではない。資産のある高齢者などの情報がどのようにして犯行者の手に渡ったのかということだ。年齢、氏名、住所、資産状況、そうした情報以外も記載された名簿が流出していた可能性が考えられる。
 医療と介護の連携事業を推進するにあたり、高齢者への介護保険サービス介入のきっかけが、振り込め詐欺や、訪問販売によるトラブルを契機とする場合があることはよく知られている。その方々の社会的背景を追っていくと、認知症などの疾病が原因で詐欺に遭うというよりも、家族や社会からの孤立が原因となる場合が多い。
 こういった、「疾病の重症度と介護の手間」以外の情報を多職種で共有することが、孤立しやすい高齢者を守る上で大切なこととなっている。各地の地域包括ケアシステムの連携で工夫がなされていることだろう。しかし、第三者によるクラウド管理(ICT化)によって、情報管理責任者の意図しないところでデータ流出が起こり、大量の被害者が出てくる可能性がある。
 30年間のデフレで需要が著しく低下、その中で消費増税や財政健全化政策により、我が国の経済規模は他国に比べより縮小した。さらには、このデフレにより国内供給能力も大きく毀損、昨年から悪性インフレ(コストプッシュインフレ)に見舞われるようになった。一般国民の生活困難は一層、深刻となっている。国民一人あたりのGDPはすでに韓国に抜き去られている。そのような世相にあるため、我が国の治安はさらに悪くなるのも当然であろう。
 私達が普段、地域で見守ろうとしている高齢者は、いつ、このような犯罪に巻き込まれるかと関係各位は情報取り扱いに関して再確認したほうがよい。特に、マイナンバーカードの利用に関しては、高齢者のみならず、我々医療従事者も十分な準備をしたとは言えない状況にある。財産のあるなしにかかわらず、高齢者の情報は、詐欺だけでなく、ニュ
ービジネスを狙っている人間からすれば喉から手が出るほど欲しいもの。情報のクラウド管理の際、利用者に利用説明と承諾書を取得するだけでは、十分な対策とは言えない。医師会全体で定期的に情報管理の注意を促す必要がある。(葵)