TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

勤務医部会活動報告

府医ニュース

2021年12月29日 第2986号

自然淘汰圧と働き方改革
在阪5大学医師会役員・2行政医師会役員との懇談会
府医勤務医部会副部会長 幸原 晴彦

 国立大学院長会議が働き方改革の後ろ倒しを要望したのは無理もない。今回の懇談会で発表されたデータを見る限り、働き方改革に関する数字は有事下の特殊例で、平時を議論したところで会議は踊る。働き方改革の本来の目的は、組織効率を最大化することで、沈下しつつある日本の社会構造を変革させることにある。従って、時間外労働時間がどうのこうのという議論に終始することは避けたいし、また社会の多様性から産業と医療を均一化することでもない。
 今回、働き方改革となると声が小さくなる発表者が多かったが、既に回答は出ているという印象であった。労働基準法という人工的圧力ではなく、ウイルスという自然淘汰圧を医療界はまともに受けたからである。望まざる圧力だが、医療界にとっては本質性のある相手だ。急性期病院がコロナ危機に対抗し、必死で敷いた陣営そのものが、完全ではないが本来医療界が目指す体制の基本形であり、産業界の横滑り改革は、所詮靴擦れを生じるだけであろう。
 具体的には、新型コロナは各高度急性期病院で独立した、同様の体制変革をもたらした。初期の混乱期には、多くの病院で救命救急科やICUが前面に立ったことである。大学病院等では高度医療が要求され、重症患者が集中するのは道理であるが、シフト制で過重労働耐性を持つ上記の科は、平時から労働環境が整備されていた。結果的にこれらの体制は現在まで生き残り、応援に入った他科は、輪番制にしてシフト体制に適応せざるを得なかった。この布陣が正に、働き方改革の原型である。
 また、医療崩壊がなぜ起こったか、私は過重労働のみが原因であるとは思わない。医療崩壊の極悪期と言われる時でさえ、同じ院内で過重労働の医師を横目で見ながら長期休暇を取り、定時で帰宅する常勤医がいたことを知っている。
 不公平感は心を疲弊させるが、公平感は124%の力を引き出す。大阪市立十三市民病院での医療関係者の大量辞職に対し、西口幸雄院長は全科対応を取るとともに、スタッフの心の管理に苦心した。体制改革は心の管理と表裏一体である。新型コロナという重圧に耐える構造こそが、最高効率を体制内に進化させるものであることに、我々は気付かなければならない。