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医師・医療関係者のみなさまへ

第45回府医医学会総会・第53回医療近代化シンポジウム

府医ニュース

2021年12月15日 第2985号

会員の生涯研修を支援

 大阪府医師会は11月7日、令和3年度(第45回)府医医学会総会を府医会館で開催。パネル展示による一般演題発表や医学会評議員会、特別講演を行った。あわせて、第53回医療近代化シンポジウムが実施された。

 昨年度と同様に、新型コロナウイルス感染防止の観点から人数を絞った開催となった。今回のパネル展示による一般演題は、会員からの募集を行わず、府医医学研究奨励費助成研究と医学会協力医会の発表に限定。茂松茂人会長(医学会長)も展示会場を訪れ、パネル説明および意見交換の様子を見守った。
 その後、星賀正明理事が司会を務め、医学会評議員会を開催。冒頭、茂松会長はあいさつで総会開催に謝辞を述べるとともに、「新型コロナは収まりつつあるが、勤務医・開業医、そして行政が車の両輪となって、患者に寄り添っていかねばならない。府医は会員が生涯にわたって自己研鑽できるよう支援する」 と言明。生涯研修の充実に向け、引き続きの協力を願った。

大阪医学・府医会長賞 2論文を表彰

 次に、医学会雑誌『大阪医学』府医会長賞に、佐堀彰彦氏・山田晴彦氏(大阪府眼科医会)による「眼科を主とした日本の女性及び高齢(60歳以上)医師数の推移と医師の仕事量についての分析」、石名航氏(大阪皮膚科医会/いしな皮ふ科)の「足白癬に対するOTC抗真菌薬の有効性および薬物有害反応の実態調査(抗真菌剤外用薬の適正使用、費用対効果の向上を目指して)」の2論文を表彰した。続いて、荻原俊男氏(府医医学会副会長/森ノ宮医療大学名誉学長)が本年度の学術研修活動を報告。福田正博氏(府医生涯教育推進委員会委員長)は生涯研修システムの状況などを説示した。

府医医学教育功労者 野村昌作氏が講演

 特別講演では、高井康之副会長が座長を務め、本年度の府医医学教育功労者として表彰された野村昌作氏(関西医科大学副学長/内科学第一講座主任教授)が「がん関連血栓症の臨床的意義」と題して講演。まず、血栓形成のメカニズムを概説。血小板は一次止血の中心だが、凝固に対する橋渡しの重要な機能も持つとして、「プロコアグラント血小板とマイクロパーティクル」について詳細に解説した。
 更にがん関連血栓症について説明。悪性腫瘍の存在は血栓傾向の原因のひとつで、特に深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓(PE)といった静脈血栓塞栓症(VTE)の発症頻度が高くなると説示。換言すれば、VTEの症例に遭遇した場合には、他に原因がなければ悪性腫瘍が潜んでいる可能性を考慮する必要があるとし、血小板もがんの血栓症に関係すると強調。抗凝固療法と抗血小板療法とをうまく組み合わせることで、がん治療の患者が血栓症で命を落とすことがないようにしたいと結んだ。

医療近代化シンポ・COVID―19に焦点

 第53回となる医療近代化シンポジウムは、「COVID―19」を取り上げ、荻原・福田両氏が座長を務め開催された。

 最初に、朝野和典氏(大阪健康安全基盤研究所理事長)が「COVID―19診療のこれまでとこれから」と題して講演。第4波のアルファ株や第5波のデルタ株の流行から、ひとつのゲノムのタイプが他を駆逐(現在はデルタ株が圧倒)し、同時には広がらないことが分かったと説示した。あわせて、大安研でも「ゲノム解析チーム」を設置したことを公表。今後の感染再拡大は、より感染力の強い新株発生時に始まるとの見解を示した。
 なお、ワクチン接種による死亡率・重症化率の低下により、コロナ診療は「入院から外来へ」の変換点にあると言明。抗ウイルス薬は早期の投与ほど効果があるとし、保健所を介さない早期治療がカギだと強調した。また、治療薬「ロナプリーブ」が感染予防にも使用可能とされたことで、「ワクチン・治療薬・予防薬」を組み合わせた、より安全な診療が行われると期待した。

 次に、宮坂昌之氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授/同大学名誉教授)が「新型コロナウイルスに対する防御免疫とは」をテーマに、自然免疫と獲得免疫について解説。獲得免疫ではB細胞が産生する抗体とT細胞を主体とする細胞性免疫が重要であり、抗体は感染を中和する以外の作用も持つとした。また、mRNAワクチンは、▽感染および重症化の予防効果が非常に高い▽安全性は他のワクチンと同程度▽変異株に対しては一定の効果は期待でき、余病の併発や重症化を抑えることに有効――と詳説した。
 国民の8割に2回のワクチン接種が終わるまでは当事者意識を持って「自分の身は自分で守ることが大事」とまとめた。

 引き続き、森下竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授)が「新型コロナウイルスに対するワクチン開発の現状と課題」と題して登壇した。世界では非常に多様な種類のワクチンが開発されたとして、性能や長短所について解説。効果持続期間や重症化予防の程度は各々異なると述べた。
 なお、臨床試験も行われているDNAワクチンの開発に触れ、「副反応もなく、政府や多くの団体・企業から支援を受けている」と報告。他の国産ワクチンと比較して、「変異型にも対応可能で、重症化予防に重要な細胞性免疫を強く誘導できる」として、DNAワクチンを開発することには大きな意義があると力説した。

全国初のコロナ専門病院としての活躍に講演後は会場から感謝の言葉が相次いだ

 最後に、西口幸雄氏(大阪市立十三市民病院長)が「コロナ専門病院の運営と問題点」として、昨年4月に「5月から十三市民病院をコロナ専門病院にする」と突然発表された後の経緯を語った。まずは、4月中に一般入院患者をすべて転院させる必要があり、外来・救急も休止。特に出産予定280人の転院、大量の情報提供書の作成やお詫びに明け暮れたと日々を振り返った。
 専門病院としてスタート後は、様々な風評被害がある一方、多くの激励の手紙や支援物資の供給もあり励まされたと述べた。日常は感染症に関する職員研修などに注力したが、職員のモチベーション維持は難しく退職者も多く出たとの苦労を吐露。空いた時間での論文執筆や一部外来を再開させるなどにより離職を減らすよう努めたと明かした。そして、全職員がコロナ治療に関わり、その経験を基に「新型コロナウイルス感染症対応ブック」を出版したと結んだ。