TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

映画「いのちの停車場」への協力を機会に、在宅医療・ACPに積極的に取り組む

府医ニュース

2021年6月2日 第2966号

患者に寄り添う医師でありたい

 映画「いのちの停車場」(主演:吉永小百合さん)が5月21日から全国で公開されている。東京の救命救急センターで働いていた医師が、ある事件の責任をとって実家の金沢に帰郷し、在宅医として再出発する。様々な事情から在宅医療を選択した治療が困難な患者と出会っていく中で、その人らしい生き方を患者やその家族とともに考えるストーリーだ。大阪府医師会は、本作品への協力団体として、在宅医療およびアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を推進しており、茂松茂人会長が今後の方策やその思いなどを語った。

 原作は、現在も都内の高齢者医療専門病院に内科医として勤務されている作家の南杏子さんが書き下ろしたもの。昨年5月に、東映関西支社から「いのちの停車場」原作本の贈呈があった。その内容が、長年、大阪府医師会が力を入れて取り組んでいる地域医療、特に在宅医療の課題や、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)で考えていくべき点が医師の視点で如実に描かれており、非常に感銘を受けた。

多くの患者と家族が自宅での看取りを希望

 少し前になるが、府医は平成27年に「医療と介護調査――患者・家族の考える地域医療のあり方に関する意識調査」として、実際に訪問看護を受けている方および家族を対象に調査を行った。その結果、約75%は「在宅での看取り」を希望されており、人生の最終段階におけるACPの啓発は喫緊の課題と捉えている。
 多くの人は、人生の最終段階は、住み慣れた地域で家族や親しい人の中で穏やかに暮らし、看取られたいと思っている。それには、現在実践されている地域での包括した医療・ケアの連携がますます重要になってくる。「いのちの停車場」の中では、医療者が本人の希望に沿って自宅で人生の最終段階を迎える方の伴走者となる「在宅医療の姿」が様々なケースで描かれている。現実として各地域で、本人の意思に沿った医療・ケアが行われるように、しっかりと連携システムを構築していきたい。

吉永小百合さんらとの上映会イベントが中止

 原作者の南さんとは新春対談を行い、その内容は本紙の新年号(1月6日付・2951号)において掲載した。
 また、大阪府地域医療推進協議会の後援、大阪府医師協同組合の協賛を得て、4月18日に松下IMPホールにて、映画上映会とトークイベントを開催する予定であったが、新型コロナ感染拡大により中止となった。当日は、吉永さん、南野陽子さん、南さん、監督の成島出さんが出演予定で、チケットも完売していただけに大変残念な結果となった。
 しかし、本作品への協力をきっかけとして、在宅医療・ACPの普及・推進を図ることができたらと考えている。

医療の根底は患者と向き合うこと

 映画の中では、吉永さんが演じる医師が、在宅医療の難しさに直面しスタッフ達の支えを受けて様々なケースに向き合い学んでいく。また、人生の最終段階にある方への医療提供にあたり悩む姿が描かれている。これは、日常診療の中でも、我々医師・医療従事者が実際に思い悩むところであり、課せられた使命である。医療の根底は「患者と向き合うこと」なのだと思い返した。

生涯患者に寄り添った医療を提供し続ける

 映画を見終わり、生涯一人の医師として「患者に寄り添った医療」を提供し、また医師会長の立場としても会員へその精神を浸透させたいとあらためて決意した。
 このコロナ禍においては、感染防止の観点から、最期に家族に会えずに亡くなられる方も多い。家族にとっては、看取ることさえできない深い悲しみがある。
 更に現代では、経済格差が大きくなり、経済的弱者が健康弱者になる状況がある。そうした方々のためにも社会保障を整備し、しっかり医療を提供し支えることが重要だ。これらの現状を解決することも医師の役割なのだと思っている。
 あらためて、感銘を受けた南さんの小説が、豪華な配役で映画化されたことは意義深い。全国上映で、医療・看護・介護関係者はもとより、ひとりでも多くの国民にご覧になっていただきたいと願っている。
 なお、成島監督、吉永さん、キャスト・スタッフ一同から府医に感謝状が贈呈された。「(府医の)継続した活動が、国民に幸せをもたらし続けることを心から願っております」とある。この言葉を胸に今後も医師会活動に邁進していきたい。