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周産期医療研修会

府医ニュース

2021年5月26日 第2965号

新生児領域の感染症対策を考える

 大阪府医師会・大阪産婦人科医会の主催により、令和3年度第1回周産期医療研修会が5月15日午後、府医会館で開かれた。今回は「新型コロナウイルス感染症最前線」をテーマに実施。オンラインでの受講を主体とし、会場とあわせて210人が参加した。

 開会にあたり、笠原幹司・府医理事があいさつ。大阪府では関係機関の協力の下、全国でも高水準な周産期緊急医療体制を構築していると謝意を表し、体制の更なる充実に努めていくと述べた。
 続いて、和田和子氏(大阪母子医療センター新生児科主任部長)を座長に、森岡一朗氏(日本大学医学部小児科学系小児科学分野主任教授)が「我が国の新生児領域における新型コロナウイルス感染症の現状と対策」と題して講演を行った。森岡氏は、令和2年2月当時の周産期・新生児領域における新型コロナの臨床的課題に、①母子感染の懸念②新型コロナを発症し分娩に至った母親から出生した新生児への対応③人工呼吸を必要とする蘇生や入院管理が必要となった場合の対応――があったと説明。その後の事例から、母子感染はあり得るがその頻度は低く、また、母体が新型コロナの治癒後、満期で出生した新生児に先天異常を認めた報告はないとした。一方で、厳格な感染対策を講じなければ、感染した母体から新生児へ出生後の水平感染の懸念があると説示。隔離および飛沫・接触感染の予防策が推奨されると述べ、母子分離のデメリットは憂慮すべきことであるが、一時的な母子分離はやむを得ないとした。
 次に、母乳の取り扱いについて解説。新型コロナ陽性の母親から経母乳の感染リスクは低いものの、搾母乳、直接授乳のいずれも接触・飛沫感染に注意を要し、施設の状況によっては対応が難しいとした。なお、この場合、母親の感染隔離中の搾乳の継続など、隔離解除後の母乳栄養の再開を見据えた指導が重要と加えた。また、人工呼吸を必要とする蘇生や入院管理が必要となった場合も、感染が否定されるまではエアロゾルに注意した適切な個人防護具の装着が必要とした。
 森岡氏はまとめで、「日本の現状に即した新生児診療・管理体制指針が必要」と言及。その作成に向けて、今後も地道な調査が必要になると結んだ。

第4波を踏まえて感染者増に歯止めを

 次いで、早田憲司氏(愛染橋病院産婦人科部長)の座長により、朝野和典氏(大阪健康安全基盤研究所理事長)が「新型コロナウイルス感染症の現状とこれから――感染対策も含めて」と題して登壇。医療崩壊と言える危機的状況に、大阪の医療がどのように対応したかを解説した。朝野氏は、第4波以前の大阪府における確保重症病床は224床で、地域の医療提供体制を保つため、重症者数をこの範囲に抑えることが至上命題であったと説明。しかし、変異株を主とする第4波により感染者が急増し、確保病床数を上回る重症患者が発生。確保病床から溢れた重症患者への対応が、軽症・中等症病床や一般医療にも影響を与えていると述べた。また、今後は北海道・福岡・広島などでも同様の事態が想定され、「感染者増に歯止めが必要」と警鐘を鳴らした。
 続いて、感染拡大防止施策を分析。感染日別の統計で「まん延防止等重点措置」を講じた後に感染者数が頭打ちとなっており、人流の抑制に一定の効果があったとの見解を示した。あわせて、日本人の生活・行事と感染の波に相関性があると指摘。第4波は第1波と同じ時期に発生。その推移も類似しており、次は第2波が発生した7月に向けて注意が必要と訴えた。
 朝野氏は最後に、感染症法上の扱いについて言及。現在、新型コロナは指定感染症から新型インフルエンザ等感染症に変更され、重点医療機関の要件も緩和されてきているが、これらを考慮しても医療機関のハードルは高いとした。一方で、例えば「2類未満」の扱いとした場合、隔離や入院勧告などの対応が行えず、「現状にそぐわない」と明言。今後、十分な検討が望まれるとまとめた。