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医師・医療関係者のみなさまへ

高齢者へのワクチン接種を迅速に

府医ニュース

2021年5月26日 第2965号

茂松会長 かかりつけ医による個別接種が重要

 新型コロナウイルスワクチンの高齢者向け接種が本格的に各地域でスタートしている。5月の大型連休明けより、政府から自治体へのワクチン供給量が急激に増えてきた。茂松茂人会長は、医師会としてワクチン接種に全力を尽くすため、本紙を通じてあらためて会員に協力を呼び掛けた。なお、現在の接種状況、今後の見通しなど宮川松剛理事が語った。

5月下旬からワクチン接種が本格化 会員医療機関の積極的な協力が必要

会員へのお願い

【茂松会長】

大阪府では変異株の影響で、新型コロナ感染が著しく拡大し、4月22日には重症病床が満床になった。25日からの緊急事態宣言発出後も新規感染は収まらず、5月末まで宣言が延長。現在、重症病床、軽症・中等症病床ともに逼迫した状況で、府内の自宅療養者も約1万人と予断を許さない。医師会は、5月下旬から本格化する高齢者への接種を迅速に進めるよう全力を尽くす。
 まず、会員医療機関には、これまでも「診療・検査医療機関」および「自宅療養者への医療サポート医療機関」としての尽力に感謝申し上げたい。
 現在、全国的にワクチン集団接種会場などにおける「医療従事者の不足」が叫ばれている。例年、府内ではインフルエンザワクチンの個別接種が2カ月間で約420万回行われている実績がある。新型コロナワクチン接種においても、この個別接種を進めることが重要なポイントになる。
 なお、心配されていた医療機関からのアナフィラキシー報告は、100万回あたり211件と少ない。更に府医は消防関係機関に対し、緊急時のバックアップ体制も要請しており、万全の構えだ。
 また、府医では、ワクチン接種に取り組む上で参考になるよう、ホームページに「新型コロナワクチン接種・筋注の手技」資料、「新型コロナワクチン接種に際しての救急対応」動画などを掲載している。会員医療機関には接種の推進に全面的な協力をお願いしたい。

基本的な概要

【宮川理事】

まずは、あらためて現在のワクチン接種の基本的な概要について触れたい。接種期間は、令和3年2月17日から4年2月28日まで。ファイザー社製のワクチンは、通常は1回目接種から3週間後に2回目を接種する。接種対象は16歳以上で、①医療従事者等②高齢者③高齢者以外で基礎疾患を有する方や高齢者施設等の従事者④それ以外の方――の順に接種が進められている。発症予防効果は約95%と高いが、十分な免疫獲得には2回目の接種を受けてから7日程度経って以降とされる。全額公費負担で、接種後の副反応は予防接種健康被害救済制度が適用となる。
 なお、ファイザー社製ワクチンは超低温管理が必要なことも接種が進まない理由のひとつに挙げられる。メッセンジャーRNAの成分が傷みやすく、かかりつけ医で行う個別接種に際しては、ワクチンは冷凍移送した場合、14日以内(解凍後は冷蔵で5日以内、希釈後は室温で6時間以内)に使い切らなければならない。ワクチンの調整や配送は、当初V―SYS(ワクチン接種円滑化システム)を活用予定であったが、操作が複雑なため、市町村ではFAXなどへの取り扱いの変更も多い。
 また、5月から配送のワクチンには1バイアルから6回分接種可能な注射器を配布。今後は米国モデルナ社や英国アストラゼネカ社製ワクチンも供給される見通しである。

医療従事者への接種

 大阪府内の優先接種対象となる医療従事者数は、接種の第6順位までで約29万3千人。2月17日に「コロナ患者受入病院」から接種が開始された。ワクチン供給の遅れなどで、5月19日時点で、1回目は約73%、2回目は約41%の接種率にとどまっているが、6月末までには第7順位までが2回目接種を終えるよう進めていきたい。そのためには、接種体制拡充への協力が必要である。なお、大阪府は集団接種会場や個別接種機関(自院)での医療従事者の接種を可能としている。
 問題は、政府の施策で4月中旬から開始された高齢者の接種を、遅れている医療従事者の優先接種と並行して行わざるを得なくなったことである。抗体が十分にない中、集団および個別接種に対応する医療従事者のリスクは大きい。逆に、医療従事者が陽性者であった場合に高齢者に感染させてしまう可能性もある。ワクチン接種前や接種後の免疫ができるまでの間は、十分な感染防止対策の上、接種に従事するよう留意願いたい。

かかりつけ医による個別接種の方が高齢者等の接種は安全で迅速に進む

高齢者への接種

 各市町村が実施主体となる高齢者への接種は、4月中旬から施設入居者などを中心に始め、5月に入り本格的に行われている。市町村では、「窓口の電話が通じない」「予約がとれない」など混乱が生じているが、政府は7月末までに2回目の接種の完了を目標としている。各市町村によって、開始時期や集団接種・かかりつけ医による個別接種など実施方法は異なるが、行政としっかり連携を取り進めていきたい。
 なお、集団接種会場では、①予診を担当する医師②接種を担当する医師または看護師③薬剤充填および接種補助を担当する看護師または薬剤師――を1チームとしている。
 また、政府はモデルナ社製のワクチンを使用し、5月24日から大阪国際会議場を大規模接種会場に、高齢者への接種を完了させるよう取り組んでいる。更に、大阪府・市においても独自に大型施設を集団接種会場として実施する予定である。

個別接種への協力を

 府医は、高齢者や基礎疾患のある方の接種は、状態をよく知る「かかりつけ医」による個別接種を薦めている。接種予約は電話などで簡易に行える上、接種前の問診などもかかりつけ医なら時間を要さないからだ。
 委託実施医療機関となるには、ワクチンの発注および被接種者の登録を、自らV―SYSを操作して行う医療機関は、①集合契約への参加②V―SYSへの初期登録――を行う必要がある。詳細は、厚労省「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向け手引き」をご覧いただきたい。
 しかしながら、V―SYSの操作は複雑であり、個別接種を行う医療機関では扱いづらいことから、手書きの委任状を郡市区医師会を通じて市町村に提出することにより、ワクチン発注や被接種者登録をFAXなどで行える市町村も多い。その場合、V―SYSの操作は市町村や業者が代行する。なお、接種予定者のキャンセルによるワクチンロスも全国で問題となっている。ワクチンが余った際に「緊急に来院の連絡ができる患者リスト」の作成をお願いしたい。
 今後、高齢者に続いて基礎疾患のある方や一般への接種も、早ければ7月中にも始める地域が出るという認識を政府は示している。

大阪市委託事業

 大阪市では、4月からは高齢者施設への接種を実施。続いて5月24日から一般の高齢者にも集団および個別接種を開始した。府医は、市が実施する集団接種会場における医師・薬剤師・看護師の出務調整などの全面委託を受けた。会員医療機関の協力無くしてこの大規模な接種事業は進められない。市民の命と健康を守るため協力願いたい。
 なお、市内では約1400の医療機関で個別接種が並行して行われるため迅速に接種が進むものと期待する。

副反応報告の状況

 5月2日までの推定接種者382万3386人に対し、医療機関から国への副反応報告は、5560件(約0.15%)で、その頻度は2回目の方が倦怠感・頭痛・発熱などが発生し、若年者・女性に高いが、ほとんどは軽快する。アナフィラキシー報告は805件(100万回あたり211件)あった。なお、接種後の死亡例は28件(同7.3件)の報告があるが、専門家は「情報不足などによりワクチンと症状名との因果関係は評価できないもの」としている。