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時事

コロナ医療崩壊

府医ニュース

2021年5月19日 第2964号

ギリギリの社会心理

 医療現場が危機を迎えている。私の周辺でも、重症化に伴う3次救急への転送が不可能であった事例が発生している。地域医療のニーズに対応できない状態が発生し、患者の一点集中で特定の医療機関に過負荷がかかっているという現状は、過去の医療崩壊と同じである。今回の医療崩壊と表現する社会的現状を考えるにあたり、過去の医療崩壊と何が異なるのかを考察することが、同様の事態を発生させない解決の糸口になると思われる。
 過去の医療崩壊は、平成16年に新医師臨床研修制度が施行されたことが端緒になった。新研修医が大都市圏の研修病院に殺到し、地方の病院で医師が不足。特に大学病院で医局崩壊と言われる状態となり、医局員が不足した大学医局は、人員確保のため市中病院から中堅クラスの医師を引き揚げた。これにより、患者が集中する市中病院などでは、医師の過重労働のみならず、救急患者のたらい回しと言われる現象が発生した。地方における医療需給バランスが破綻したのである。
 コロナ禍に伴う医療崩壊も、現場の医療需給バランスに破綻が見られた。患者は設備と医療従事者が専門化された医療機関に集中したが、訓練された医療者が追いつかない事態が発生したわけである。今回は重症化に伴う専門的医療のため、患者が特定の病院に集中した。医療需給バランスの破綻は呼吸器専門科に集中しているため、前回と比較して小分野である。しかし、全国レベルでの感染拡大であったため、その許容力が小さく、融通が利かなかった。
 過去の医療崩壊からの経過で、我々は東日本大震災と阪神・淡路大震災を経験し、これらの緊急事態を打開するため、DMATに代表される医療システムの構築が行われた。吉村洋文・大阪府知事が全国からコロナ専門医療スタッフの派遣を要請した時など、このような救援システムが整備されていたならば、今回の医療崩壊はギリギリ防げたかもしれない。実際、後送病院の整備に関して、2回目の府知事の要請に対しては、各病院がスムーズに対応できていた。危機対応に関しての機能分化と言う点では、地域医療構想を地でいくような連携を彷彿とさせ、大阪府医師会も全面的に協力するなど、今後の医療体制構築への布石は十分である確信を持った。また、今回の危機対応が公立系の大病院のみならず、私立病院が尽力したことは特記すべきかもしれない。大阪府では、約7割の救急患者を私立病院が対応していると以前から声高に訴えられていた。病院統合など、不採算部門は切り離すという病院分化国策の過程で、救急という疾患的に明確でない患者対応は曖昧な存在であったが、コロナ禍という明瞭なテーマに存在感が示せたことは、今後の大阪の医療の在り方に一石を投じたと言える。
 以上の考察は、長期的視野で医療の在り方を描く上で必要だが、今回の医療崩壊の直接的な原因と考えているわけではない。医療崩壊は、COVID―19変異株の猛威により生じたと報道されているが、実際はそうではない。日本が経済と医療のバランスの中、医療の最大値内で経済の最大値を目指した政策の結果である。だから、いくら医療体制が充実していても起こり得るし、医療体制が貧弱だったとしても、経済を縮小すれば起こらない。しかし、失業が多発する中、経済をゼロにすることは不可能であり、結果的にはそのバランスの読み違えが患者の増加につながる。
 今回の患者増加以前にも、ワクチンに効果があると証明された時点で、患者の増加は予測されていた。人々の行動が大胆になり、感染の機会が増加するという考察だ。実際、GoTo関連のイベント終了後に患者数が増加している。人々の行動を予測することは非常に難しい。コロナ対策を拡充しても、人々の行動は医療崩壊ギリギリまで拡大される可能性があるから、いつまで経っても現場で悲鳴が上がっているという状態になりかねないのである。このような意味で、今回の医療崩壊に対しては改善策を提示するのも大事ではあるが、人々の医療への安心感から不要不急の外出につながらないような心理作戦も並行して必要だろう。(晴)