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時事

地域医療構想と特措法改正

府医ニュース

2021年2月17日 第2955号

嵐の中、南南東に針路をきれ

 2月3日に成立した改正新型インフルエンザ等対策特別措置法においては、入院拒否患者に対する罰金刑は過料にまで減じられた。我々に直接関係があるのは、感染症法第16条の2の改正である。新型コロナウイルスの治療に関して、厚生労働大臣や都道府県知事の医療機関への協力要請が勧告に変更されている。大阪市の十三市民病院への行政処置は記憶に新しいが、これに似たような対応が、各医療機関に勧告を持って処せられる可能性があるということである。勧告に従わなかった医療機関の公表に関して国会で議論になったが、「余程のことがない限り公表には至らない」という田村憲久厚労大臣の一言で終了した。
 国の動きに先んじるのが、吉村洋文大阪府知事の政策である。大阪コロナ重症センターの設置後、自衛隊をはじめ全国から人材派遣を要請すると同時に、プレハブ重症病棟を設置するなど、知事主導の医療政策としては、今回の特捜法改正の力を借りることもなく、コロナ禍に対する積極的な政策を行っている。大阪市もこれに先立ち、十三市民病院のコロナ専門病院化など、旧体制の病院に切り込む政策を打ち出すなど、コロナ禍対策に政治的手腕を発揮している。
 これら一連の政策の流れの中で、最近クローズアップされてきているのが、コロナ回復期の後送病院の確保である。重症があれば回復期がある。重症患者対策を短期間で行ったため、それに追いつかない医療体制が露呈してきたわけである。吉村知事は現在、緊急事態宣言が解除された後も、蔓延防止等重点措置への移行を示している。これは改正特措法で新設された項目だが、コロナ禍が収束しても、今回のような事態が発生しないように、行政勧告が医療機関へ発することができるのである。この目的は急性期対応と回復期患者の後送病院整備に尽きる。すなわち新型コロナ感染症診療に特化した病院機能分化を進めていくということである。
 以上の大阪府の動きは斬新な試みのように見えるが、地域医療構想という観点から見た時、大阪の動きは既に規定されたレール上を走っているとも言える。コロナ禍前では2025年までに地域医療構想を計画通り遂行しなければならなかったが、医師の勤務時間把握のタイムレコーダーを設置するだけでも大騒動になっていたので、前途多難であった。まず働き方改革を成功させるためには、地域医療構想に沿った患者の再配置が最初であるが、そのためには患者とのバトルとも言える逆紹介を克服してから、大病院の勤務医の負担を軽減することが必要とされていた。後送医療機関の整備などは、急性期対応だけでほとんど手一杯とも言える状況で、勤務医の労働時間を短縮するなど、気の遠くなるような政策内容であった。私は最近、定年に伴い、千数百人の患者の逆紹介を行わねばならない状況に陥っているが、15年前に数百人を逆紹介した時と比較して、患者の抵抗感が全く異なることを見出している。ほぼすべての患者が、特措法成立のことを知っており、また回復期コロナ患者の後送病院に関しても、急性期病院から回復期への移動が困難であるなどの知識が、一般に浸透しているのである。急性期病院からのかかりつけ医機能の一部移動を説明しても、以前のような抵抗感はない。コロナ禍は人心に大きな傷を残したが、それとともに逆紹介に対する寛容性も増加しているようである。
 大阪府に限れば、今後新型コロナ感染症に関しての機能分化は、行政の強力な指導とともに確実に進行していくであろう。医療機能分化がどのように効率を上げたか、その成果を国民が評価することによって、今後の医療事情が変わってくる。
 ただ、新型コロナ感染症は、後送病院の確保ができれば、感染症の治療が終了すれば次の段階はない。しかし生活習慣病のような慢性期管理は、更に複雑な管理体制が必要である。地域医療構想では行政、医師会、学会が協議して医療体制を構築していく計画であるから、行政は成果を元に次の一手を我々に示してくるであろう。2025年に向けての具体的な行動が求められるわけである。
(晴)