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医師・医療関係者のみなさまへ

「毎日21世紀フォーラム」で茂松茂人会長が講演

府医ニュース

2021年1月27日 第2953号

経済回復には、医療体制の充実を

 茂松茂人・大阪府医師会長が、令和2年12月9日午後、大阪市内のホテルで開催された異業種交流組織「毎日21世紀フォーラム」に登壇し、新型コロナウイルス感染症に対する府医の取り組みや今後の対応などを語った。当日は、関西の企業人ら約170人の参加があった。

医療現場からウィズコロナを考える

 冒頭、茂松会長は、これまで各界の偉人が登壇した本フォーラムに招かれたことを光栄に思うと述べ、「医療現場からウィズコロナを考える」と題して講演に入った。
 まず、新型コロナウイルス感染症の特徴などを詳説。治癒後に後遺症が多く生じていることを問題視した。後遺症は、倦怠感や呼吸困難の割合が高く、嗅覚障害や心筋症など多様な症状も見られると言述。米国の調査結果でも、感染者の35%が診断から2~3週間経過後も症状が続くと付け加えた。
 次に、PCR検査や抗原検査(定量・定性)など各病原体検査の種類や特徴について説示。なお、症状の近いインフルエンザとの違いは、▽発熱に加えて味覚障害・嗅覚障害を伴うことがある▽潜伏期間が長い▽感染力が高い▽軽症例の治療薬がない――などを挙げ、軽症の療養者からでも急変する場合があると注意を促した。

府医の取り組み

 続いて、これまで府医が行政とともに取り組んできた「軽症者宿泊療養施設への医師派遣」や「ドライブスルーによるPCR外来への出務協力」などを報告。これらの体制には保健所の機能強化・連携が必要と述べた。
 なお、コロナ治療の前線に立つ医師・看護師ら従事者の労務の多さにも触れ、介護や院内清掃まで看護師が担っていることに対して、関連する業者にも感染拡大時における研修の必要性を訴えた。

今冬の診療体制

 一方、先に新型コロナ流行下での冬が到来した南半球ではインフルエンザは流行せず、日本でも感染者が昨年に比して9割以上減少していると指摘。11月後半から「かかりつけ医」が新型コロナを疑う場合の相談に乗る体制がスタートし、府内1200医療機関が「診療・検査医療機関」として対応していることを紹介した。

感染状況と対策

 講演半ばには、新型コロナの感染状況について説明。①第1波の際は、4月7日の緊急事態宣言後に新規陽性感染者数が徐々に減少し、5月初めには収束②第2波は若年層から50・60・70歳代の中高齢層にも徐々に感染③経過を見ながら経済を回していこうとGoToキャンペーンが始まり第3波に入った――などこれまでの経緯を振り返った。その上で、社会で動く人にはPCR検査を行い、陽性反応が出たら一定期間隔離する施策が必要との見解を示した。
 その後、大阪府が受入病床の運用状況から、「フェーズ4」への移行を判断したことについて触れた。重症病床計画215床に対し、(12月9日現在で)運用できている170床に8割強が入院するなど逼迫。それを補う12月中旬からの「大阪コロナ重症センター」稼働には、看護師などが集まらず、自衛隊などにスタッフ派遣の協力要請が必要であったと報告した。
 今後は、医師・看護師には感染症や救急災害時に全員が対応できるよう持続した研修を受けてもらうことが必要で、医師の専門性重視の教育も見直すべきと力を込めた。
 また、第3波の死亡者について解説。入院後に重症化して死亡した人は約2割で、その他8割は高齢者や基礎疾患を有する者など積極的治療ができない状態が多いと説明した。
 更に、新型コロナ感染6カ月後の中和抗体保有率は全体で98%あるとの研究成果を紹介。今後、ワクチン接種の有効性・安全性を検証した上で、令和3年の春までに開始されると期待感を示した。

医療機関の経営悪化

 最近の医療費は前年同月比で全科において減少し、特に小児科・耳鼻科の経営が厳しいことを危惧。反面、企業の利益剰余金が年々増加していることは問題とした。「利益を賃金に還元し、社会保険料などが増えることで経済も回る」と、企業経営を担う参加者に要請。「国民が安心する状況を作り社会格差を解消する」ことも医師会の役割と言明した。

新生活様式にシフト

 最後に、コロナ禍により、自宅での時間の増加やオンライン飲み会などの新文化、およびソーシャルディスタンスなどの新しい生活様式で、暮らしが一変したことに言及。意思疎通や帰属意識の低下などに留意し、健康的な食事や適度な運動など、自己管理を心掛けるよう呼び掛けた。
 経済を動かすことで国民の生活を安定させることも重要だが、「経済を回すなら、医療体制を充実させてから」というのが、我々医療者の願いであると締めくくった。

毎日21世紀フォーラム

 毎日新聞本社が、関西の企業人らが交流する場をつくることで、関西の活性化、発展に貢献したいとの思いで、平成13年に発足した組織である。過去の例会では、小泉純一郎元首相や山中伸弥・京都大学教授、又吉直樹・芥川賞作家ら、第一線で活躍する政治家や財界人、文化人が登壇している。