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時事

HER―SYSの普及、遅れる

府医ニュース

2020年8月19日 第2937号

COVID―19即時共有システムの課題

 7月22日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリー・ボードの「感染者情報の活用のあり方に関するワーキング・グループ(WG)」の初会合が開催された。このWGは、「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER―SYS:Health Center Real-time Information- sharing System on COVID-19)」の運用上の課題、データ活用の在り方、感染症情報の収集・管理の仕組み等を論点としている。
 HER―SYSは、従来の、医療機関が手書きによる発生届をFAXで送り、それを保健所で入力していた「感染症サーベイランスシステム(NESID:National Epidemiological Surveillance of Infectious Disease)」に代わり、5月29日に利用が開始された。COVID―19感染者の情報を電子的に入力、一元的に管理して関係者間で共有するシステムで、インターネットを経由しクラウド上に情報が蓄積される。
 医療機関は、発生届の内容に加えて、入院情報(入退院日、医療機関名・医師名、症状・重症度、所見、ICU・人工呼吸器・ECMO使用状況、転帰)や検査・診断情報(問診情報、基礎疾患、検査記録)をパソコン・タブレット等で直接入力する。また、感染者や濃厚接触者も、自身でスマートフォン等で、健康情報(毎日の体温や息苦しさなどの症状等)を入力することができる。
 これにより、保健所でのFAXおよびその情報をパソコンに入力する作業、電話での問い合わせや聞き取り調査の負担が減少し、医療機関から都道府県や国までの情報共有が即時に行われ、大きな問題となっていた集計の遅滞がなくなり、入院調整の迅速化やクラスター対策の効率化が可能になると見込まれていた。
 しかし現実には、普及は遅れた。保健所を設置する155自治体のうち、7月3日時点で43自治体が、14日時点でも39自治体(25%)が未利用であった。また、導入済みの自治体においても、IDが発行された帰国者・接触者外来等の医療機関は半数程度にとどまり、実際に使われているかどうか国では把握されていなかった。このため7月17日には、厚労省から利用促進のための事務連絡が行われた。それでも、未導入は33自治体(21%)までしか減らなかった。
 いずれも東京都と大阪府であり、既存のシステムからの移行や個人情報保護条例の手続きに時間を要しているとされ、8月上旬の開始予定と報じられている。
 入力項目の多さや、入力時にインターネット接続環境が必須なこと、電話通信を用いたワンタイムパスワードによる2段階認証の煩雑さなどが現場での問題と指摘されており、WGの議論でも、何らかのインセンティブが必要と確認された。
 ちなみに、都道府県と医師会が結んだ集合契約の下、医療機関がPCR検査や抗原検査を行政検査として実施した場合は、〝やむを得ない事情がある場合を除き〟速やかにHER―SYSにより結果を報告するよう、定められている。診療所にとっても、無縁な問題ではない。
(学)