TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

より良い睡眠が健康をもたらす?!

府医ニュース

2019年11月27日 第2911号

 ミミズクは思う。〝惰眠を貪る〟という言い回しは睡眠を不当に貶める言葉である。差別用語と言っても過言ではない。ミミズクは何も〝言葉狩り〟がしたいわけではなく、かつて学会で不覚にも自身の病院の演題発表中に寝てしまったことを正当化しようとしているわけでもない。今こそ健康維持・疾病対策における睡眠の効果を見直すべき時ではないか。
 オレキシン(ヒポクレチン)は視床下部外側野の神経細胞により産生される神経ペプチドで睡眠覚醒の調節に重要な役割を果たしている。オレキシン産生調節障害はナルコレプシー、肥満、加齢関連疾患の発症・進展に深く関わっており(Aging Res Rev 20:63 2015)、オレキシン調節障害による睡眠・覚醒リズムの異常はアルツハイマー病の病態生理にも関与している(Curr Top Behav Neurosci 33:305 2017)。しかし「本当にそうなのか?!」と思われる方も少なくないであろう。小学生ではあるまいし、「早寝、早起き、元気な子!」では納得しかねる。求められるのはエビデンスである。
 ボストンのMGHとハーバード大学のグループはマウスの系で睡眠の中断により視床下部のオレキシン産生低下を来し、その結果炎症の担い手である単球が増加してアテローム性動脈硬化病変が進展することを示した(Nature 566:383 2019)。またワシントン大学のグループは同じくマウスの系で、睡眠・覚醒調節が脳間質のタウ蛋白を調節しており、睡眠分断が脳間質と脳脊髄液のタウ蛋白を増加させて脳神経変性を助長する可能性を報告している(Science 363:880 2019)。
 要するに良質の睡眠を十分取ることにより、過剰な炎症は抑制されて加齢関連疾患、動脈硬化性疾患のリスクが低下し、おまけに神経細胞変性の原因物質の掃除もできる可能性があるのだ。そして逆もまた真である。これで〝惰眠を貪る〟は誤っていることが示された。新たに〝惰醒を貪る〟という警句を提唱したい。
 医師なら誰でもそうだろうが、若い頃は〝睡眠の中断〟は日常茶飯事であった。当時の〝断眠負債〟が残っていないことを願うばかりである。幸い今は睡眠を中断するコールはない。だが歳のせいか、よく夜中に眼が覚める。オレキシンのエビデンスは分かった。ではどうすれば健全な睡眠調節ができるのか、誰かそれを教えてほしい……。