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時事

河内長野の応戦

府医ニュース

2019年9月4日 第2903号

律動的病診連携は可能か?

 このテーマを書き始めたのは、平成20年秋。当初の目標は、円滑な逆紹介をいかにして行うかであった。前任者が数百人の患者逆紹介を機械的に行った後に着任したのだが、問題が山積している中で開始したプロジェクトであった。
 10年に厚生労働省が逆紹介を地域医療支援病院の基本政策に据えてから、約20年になる。当時、厚生労働省は逆紹介を強く奨励しており、前任者はこの線に沿って試行したと考えられる。特に国策に反したわけではないにもかかわらず、混乱が生じる渦中に飛び込んだわけだが、この複雑な事態の把握には時間を要した。紹介状も書き、受診可能な診療所も多数ある状態で、かつ症状が安定した患者を強制的に紹介した場合に、患者がフリーアクセス権を主張して逆紹介を断った時、その応召義務は問われるかという今様の問題提起にすれば分かりやすい。
 昨今、応召義務に対する判断基準は変化してきているが、いつの時代でも全体の風を見極めながら行動しないと、政府が主張したことでさえ「ノー」ということもあるというのが最終結論であった。同様の逆紹介は他科でも行われてきたが、当院が地区で唯一の中核病院という特殊性があり、また旧大日本帝国陸軍病院であったというブランド性も一因であった。大阪市内の病院であれば競争も激しく、逆紹介をすると他院に移動するだけで、逆紹介の本来の目的を達することができない。逆紹介の混乱の渦中に着任したため、その解決の過程を記録し始めたのが河内長野の応戦だった。当初の考えは、河内長野の特殊性から一般論を演繹する手段をとった。それは患者の大病院志向を緩和するため、疾患コンセプトを患者を介して地域に開示し続けることで、中核病院と地域のギャップがなくなり、逆紹介がしやすくなるという論理を組み立てた。
 現時点では当院の外来患者数はかえって大幅に増加したため、患者集中は解決できなかった。そういう意味では、特殊解である強制逆紹介の方がアウトカムとしては効果があったということになる。
 しかし河内長野の応戦では、疾患コンセプトの提示という観点では成功している。また患者サービスという点でも好評である。患者を減少させるという初期目標は達成できなかったとしても、患者に受け入れられたという事実は悪くない。すなわち、中核病院の患者サービス向上は、時代には逆行するが、当初から自己矛盾を含んでいた。開発拠点としての中核病院は、スタッフも多く、各種機器の使用の機会にも恵まれている。そこでの試行は必然であった。また疾患コンセプト提示は、逆紹介のためとは患者に説明はしていない。あくまで個人の治療目的である。無料で説明用紙をくれるサービス満載の病院外来から、更に上記の特殊性を持つ地区でもあり、外来患者が簡単に病院を離れるかどうか。強制的逆紹介を取らなければ、結果はこのようなものであろう。
 追求した方法論が効力を発揮するか否かは、当方法論の地域への技術拡散が、実際当院外来患者数を逆紹介によって減少させることができるかという第2段階にかかっている。昨今、外来患者数の増加は、200床以上の病院では全く評価されないが、それ以外の医療機関では歓迎されるだろう。実際、厚労省はかかりつけ医機能の200床未満の医療機関への移転を指南している。もちろん、強制はしていない。目的は疾患コンセプトの提示にあるから、患者数増加を目標にしても、結果的に疾患コンセプトが周知できれば問題ないと思われる。複数他院での外来患者数が増加すれば、当科の外来患者縮小に効果があるわけである。
 今後の触りの部分を記しておくと、医療情報開示は最終目的ではない。例えばICTを利用して、自宅や診療所で病院の記録が簡単に閲覧できるような、便利なシステム開発ではない。むしろ疾患コンセプトを核にした人的関係の構築がメインである。そろそろ地域への技術移転の時期が近付いているのだろう。
(晴)