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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

スペインのリスク・スコアをスイスで使う

府医ニュース

2019年8月28日 第2902号

 超高齢社会である。当然救急診療の現場では急性心不全(AHF)が増加する。そして高齢者のAHFでは、様々な臓器合併症を抱えている症例が大半であろう。入院後全力投球の集中治療にて短期生命予後の改善をはかるか、可及的速やかに外来診療・リハビリに移行可能か、あるいは緩和治療を優先すべきか等は大きな問題であり、来院時の予後予測は重要である。良質のリスク層別化スコアが求められる所以である。
 リスク・スコアのひとつにスペインのグループが報告した「救急部におけるAHF患者のためのスペイン式スコアによるリスク多項目評価(MEESSI―AHF)」がある。この長い名前、何とかならないものか。これは日常生活動作(バーセルインデックス)、年齢、収縮期血圧、呼吸数、酸素飽和度、NYHAクラス、NT―pro BNP、血清Cr、K、トロポニン値、FCG心肥大所見、急性冠症候群や低心拍出症候群の有無など13のリスク因子によって、受診後30日以内の死亡率を予測するもので、3229人のコホート研究によってその有用性が実証されている(Ann Intern Med 167:698 2017)。
 〝しかしMEESSI―AHFは他の国の患者を対象とした場合に有用か否かは明らかでない。そこでスイスの患者を対象として検証を行った。〟という研究がバーゼル大学病院のグループから発表された(Ann Intern Med ; Jan 29 2019)。「江戸の敵を長崎で…ならぬマドリッドの敵をバーゼルで…」と思ったが、さにあらず、先行文献の著者が複数名を連ねている。著者らは友好関係にあるようだ。しかもEUからも研究助成を受けている。
 さて、スイスでMEESSI―AHFを1572例に適応してみたところ、30日死亡率の予測についてC―統計量0.80という優れた識別力をしめした。6つのリスクグループに分けたところ、最低リスクは死亡0で、最高リスクでは死亡35名(28.5%)であったという。著者らは、このスペインのスコアシステムはスイスでも有用であったが、適応する患者集団が変わる場合はスコアの再較正が必要かも、と述べている。確かにスペインとスイスは違う。検証が必要と言われたらそのとおりである。となれば他のEU諸国でも検証が必要だ。さすればやや粗製濫造の嫌いはあるが、あと最低26本ほど論文が書ける。しかしEU諸国の堪忍袋の緒は切れていると思うので、英国での研究にはEUは助成しないであろう。