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時の話題

後継者不足による第三者承継

府医ニュース

2019年3月6日 第2885号

日医の支援や行政の対策が必要

 1月8日、日医総研は「医業承継の現状と課題」とするワーキングペーパーを公表した。近年、医師の高齢化、後継者不在などにより事業の承継が困難な事案が少なくない。このため、地域医療の安定供給の観点から、医療機関の事業承継に関わる論点を整理し、問題への対処法を提示することを目的に調査が実施された。
 調査は文献調査と入手可能な統計データ分析に加え、多くの医業承継事案を取り扱う専門職(公認会計士・税理士・弁護士)、経営コンサルタント、M&A仲介事業者へのインタビュー調査により行われた。その結果、民間調査データに基づく医療機関経営者の後継者不在率を施設別に見ると、診療所で86.1%、病院が68.4%であり、全業種合計の66.5%よりも高く、地域別では東北・北海道、関東甲信越、近畿で高い傾向が見られた。また、医療機関において既に後継者を決めているケースでは、当該後継者の属性が「非親族」である割合は、診療所で12.4%、病院で35.3%であった。他方、自身のリタイアメントプランを検討する医師のうち「後継者がいない、未確定」の医師の約8割が「第三者承継」(M&A=合併、買収)を選択肢に入れているとの民間調査結果が示された。
 日本医師会の調査(2009年)によると、開業後30年超の医師の開業時年齢が37.5歳だったのに対して、開業5年以内の同年齢は44.9歳と高齢化が見られた。第三者承継の実態は明らかになっていないが、複数のM&A仲介事業者の公表資料を紹介する。第三者承継の割合は12年で8%であったほか、20年前に8.6%であったのが、直近では45.9%に急伸している例や、「勤務医以外への譲渡」が21.3%を占めるとのデータも見られた。その結果、各地で第三者承継における事業の譲渡希望者および譲受希望者(事業承継により新規開業を希望する勤務医、分院開設希望の医療機関、医療界への進出を目論む一般事業会社等)に対するM&A仲介事業者や税理士事務所、経営コンサルタントの働きかけが活発化し、セミナー等による譲渡・譲受希望者のマーケティング活動が盛んに行われている。仲介手数料は売買成立金額の3%~10%が相場で、譲渡希望者と譲受希望者の双方から徴求することもあるという。
 昨今、子が医師であるにもかかわらず、親の医業を承継しないケースも増えている。その背景として、▽地域の将来に対する不安(特に地方)▽自分の家族の生活スタイルや教育環境▽居住環境を重視したいとの志向――などがあるとされている。一方、親の側にも、長年の医療費抑制策、将来の人口減少による医療需要の減少、管理業務に伴う手間とコスト(特に雇用と労務管理)といった医療を取り巻く環境から、経営者になるメリットが薄く、勤務医でいるほうが合理的と考え、「子に継がせたくない」との心情もある。
 仲介事業者に関しては、医療従事者の紹介業も同様の構造である。既に一部の都道府県医師会では会員の医業承継者を支援する仕組みを立ち上げる具体的な活動を行っている。地域医療を守る、会員の医業を支援する意味から、医業承継、医療従事者の人材確保については、日医による更なる介入・支援が求められるとともに、行政による適切な対策が必要である。