TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

風呂は命の洗濯

府医ニュース

2019年1月30日 第2881号

 “風呂は命の洗濯よ”というのはある有名アニメの中のセリフだが、ミミズクはけっこう共感できる。少なくとも湯船につかって“極楽、極楽~”と悦に入るよりも穏当である。医師たるもの、安易に“極楽”を連呼すべきではない。ところで、巷間言い伝えられている入浴の効用についての科学的根拠はあるのだろうか。
 サウナ浴(sauna bathing)の有用性に関しては、鄭忠和・鹿児島大学名誉教授が創始された「和温療法」の心不全に対する運動能改善効果などについて多数の論文が発表されており(Circ J 74:
617 2010,Am J Cardiol 109:100 2012, Circ J 80:827 2016)、また東フィンランド大学のグループはサウナ浴の回数が増えるに従って、心臓突然死、致死的虚血性心疾患、致死的心血管病、全死亡率が低下することを報告している(JAMA Intern Med 175:542, 2015)。
 では、普段の我々の入浴(hot water bathing)には効果があるのだろうか。最近、この問題に関する研究が愛媛大学から発表された(Scientific Reports 8:8687 2018)。対象は同大学の「抗加齢・予防医療センター」の検診受診者873人(平均年齢66歳、男女比4対6、登録時点で心血管病なし)で、入浴に関するアンケートに加え、動脈硬化指標として頚動脈内膜中膜厚と上腕足首間脈波伝搬速度を計測し、中心血圧指標を橈骨圧波形から求め、更に心負荷の指標としてBNPを測定している。また164人については経年的変化も検討している。
 さて結果だが、平均入浴時間は最長120分、平均12.4±9.9分、1週間の入浴回数は最多で24回(おそらく道後温泉地区にお住まいの方であろう)、平均5.8±1.9回であった。週に5回以上入浴する人は4回以下の人に比べて、動脈硬化指標、中心血圧、BNPがいずれも有意に低値であり、また経年性のBNP上昇も抑制されていたという。湯の温度は熱め(41度より高い)の方がより効果が高そうではあるが、最適な湯温や入浴方法については、今後の検討課題だそうだ。
 どうやら“風呂は命の洗濯”は正しそうである。少なくとも“風呂は心臓の洗濯”になる可能性は高い。今後は“天然温泉VS家風呂”のRCT研究なんぞ面白いかも知れない。何なら“天然温泉VS温泉の素”でも良い。だがその前に、やはり最適な湯温や入浴方法を決める方が先決か。できれば“ぬるめのお湯でカラスの行水”というミミズクにも適用できるエビデンスを望む次第である。