TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

"memento calculus"

府医ニュース

2018年10月31日 第2872号

 大阪府医師会員諸兄姉におかれては、尿路結石の仙痛発作を経験されたことはおありだろうか。ミミズクは一度ある。もう20年くらい前になるが、ある朝突然、腰背部痛が出現。しかし激痛ではなく、そのまま親戚の結婚式に出かけた。痛みはいっこうに良くならず、これは運動不足に違いないと思って体操を始めたが改善しなかった。そして1週間程過ぎた頃、突如として肉眼的血尿が出現した。
 これは腰痛体操などしている場合ではない、ということで泌尿器科にお願いして経静脈的尿路造影をしていただいた。「これで何もなかったら膀胱鏡だな~」という声が聞こえていたので、"これで何もなかったら即逃走"と心に決めていたところ、幸いにも結石が写って一件落着となった。腰痛のため、しばらく無口になっていたが、1週間ばかりで自然排石に至り、ミミズクの無駄口も復活した。
 結石の場合、痛みの消失と自然排石の確認があれば問題解決であるが、"疼痛は完全に消失したが自然排石は未確認"という場合も決して稀でない。無論、排石に気付かないこともあるだろうが、そこのところをはっきりさせたい、という研究が最近報告された(J Urology 199:1011,
2018)。
 対象は、仙痛があり画像で結石が確認され、数週間後のフォローアップ時に仙痛が少なくとも72時間以上消失していた患者52例である。症状が全く消失しているにもかかわらず、52例中14例(26.9%)で結石の残存が確認された。結石のサイズや部位と排石との間には相関は認められなかったという。そうなると、尿路結石で疼痛が消失しても排石が確認されなければ、無症候の尿路閉塞などの早期発見のために定期的な画像のフォローをすべきである、ということになる。
 ラテン語の有名な警句に「memento mori」があり、欧州のルネサンス・バロック時代の様々な芸術のモチーフにもなっている。無論、医学徒にとっても重要な警句であることは言うまでもない。不肖ミミズクでさえ、「死を忘れるな」という言葉は片時も忘れたことはない。さて、ここまで書くと本稿のオチに気付かれた方も多いのではないかと推察するが、今回の知見が示す真理をラテン語の警句で表すと「memento calculus」=「石を忘れるな」となる。字句を見てもどうってことはないが、日本語で音読して比較していただければ"共振する深淵なる真理"がご理解いただけるであろう。