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TINAと「対案を出せ」

府医ニュース

2017年5月17日 第2820号

 「この道しかない」。首相がアベノミクスを語る際によく出てくる言葉である。もともとは英国のサッチャー元首相が構造改革推進に使ったThere is no Alternative(TINA)が語源である。「郵政民営化(都構想)に賛成か反対か」も我が国の構造改革者がよく使う言葉である。物事を単純化し、そして大衆を煽動するために使う「賛成か反対か」の2項対立論。「反対なら対案を出せ」も元首相や元知事が頻繁に使った用語だ。深慮に深慮を重ねた者が様々な理由で反対を表明する。それに対して構造改革論者(近代合理主義者)は、反論には応じず対案を求める。答えに窮する質問者に「ほら、君は反対をするだけのために意見を言うだけじゃないか」と大衆にアピールする。本来、政策立案者は、真摯に反対論者の意見に耳を傾け、様々な議論を重ねる。そして成立か否決、もしくは、中間論、更には、保守的に漸進的に一部変革をする、あるいは期間を限定し政策を進めるなど、様々な結果や合意形成をなすものだと私は思っている。
 為政者がTINAを使用すると、それは一般市民にも新たな思考として浸透する。先日のこと、会議である急進的な改革案に反対したのだが、「具体的にどうすればいいのか教えてくださいよ」と返された。反対だから反対だと言うと、「対案を出せ」と勝ち誇られた。別の日、書店で本をめくっていると、『なんでも反対する人は、目立ちたいだけ。「具体的にどうすればいいのか」と聞いてみればいい、何も答えられないから』という箇所を見つけた。
 先程も書いたが、賛成と反対には無数のバリエーションが存在する。そして教養としてあり得ないもの、急進的なものには警戒を持つ。つまり、保守的な態度から反対しているということが、最近の大衆的な人々には理解できないのだろう。「この道しかない」「対案を出せ」という革新的なマジックワードを思慮なく使う場面が私にないとはいえない。このようなイデオロギーに陥らないよう注意したい。(真)