TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

近医連が一致団結して政策提言

府医ニュース

2016年9月21日 第2796号

平成28年度定時委員総会 神戸で開催

 近畿2府4県の医師会で構成される近畿医師会連合(近医連/今期委員長=空地顕一・兵庫県医師会長)の平成28年度定時委員総会が9月4日、神戸市内のホテルで行われた。午前中には常任委員会のほか、「医療保険」「地域医療」「医療安全」「災害医療」の各分科会が開かれ、日本医師会の役員を交えて熱心な討議が展開された。午後の委員総会では、今期予算・事業計画が承認されたほか、6項目にわたる決議が採択された。

医療のための財源確保の要望など6項目を決議

 総会の冒頭、空地委員長はあいさつの中で新専門医制度に言及。日本専門医機構の役員として参画している松原謙二・日医副会長(同機構副理事長)および井戸敏三・兵庫県知事(同理事)が来賓として出席していると紹介し、様々な課題の解消に向け尽力されていると述べ、一層の活躍に期待を寄せた。更に、G7伊勢志摩首脳宣言の中で、ユニバーサル・ヘルス・カバリッジの推進が盛り込まれたことは「非常に意義深い」と前置き。すべての人が安価に治療・予防・健康増進ができる我が国の医療制度の神髄を世界に広めようとするものであると力を込めた。また、医療・健康に関しては、「企業による営利独占を防ぐ必要がある」と強調。日本の医療制度を堅持し、国民の健康を守るとの決意を改めて示した。
 次いで前期主務地医師会長として茂松茂人・大阪府医師会長が登壇。昨年の集中豪雨による鬼怒川決壊、本年4月の熊本地震などの自然災害に触れ、災害医療に関しても近医連が連携する重要性を重ねて訴えた。一方で、国の医療政策は管理・抑制の方向へと進んでおり、「国民の健康が脅かされる」と危惧。近医連が一致団結して対応を協議し、日医へ提言したいと締めくくった。
 28年度の近医連役員については、委員長に空地・兵庫県医師会長、副委員長に猪飼剛・滋賀県医師会長および足立光平・兵庫県医師会副会長、常任委員に寺下浩彰・和歌山県医師会長と森洋一・京都府医師会長、監事には塩見俊次・奈良県医師会長ならびに茂松・府医会長が選任された。続いて横倉義武・日医会長、井戸・兵庫県知事、久元喜造・神戸市長が来賓としてあいさつした。
 その後、空地委員長が議長を務め、27年度の近医連活動を加納康至・府医副会長、同歳入歳出決算を北村良夫・府医理事が報告。拍手多数で了承された。あわせて足立・兵庫県医師会副会長より28年度事業計画、杉本欣也・同副会長から予算が提案され、いずれも承認された。午前中に行われた4分科会の座長より、協議の模様が報告された後、6項目にわたる決議が採択された。

特別講演「変動帯日本列島に暮らす覚悟」巽好幸氏

 特別講演では、巽好幸氏(神戸大学海洋底探査センター教授/センター長)が「変動帯日本列島に暮らす覚悟」と題して、世界一の地震・火山大国である日本で暮らすための覚悟という視点で解説。日本列島では「地震はいつでも、どこでも起こる」との見方を示し、対策を講じる必要性を説いた。
 また、「知っておくべき事実」として、巨大カルデラ噴火を挙げ、最悪のシナリオとして「1億人以上が死亡する」との驚愕のデータで伝えた。しかも、当該噴火は「今後100年の間に、約1%の確率で発生する」と指摘。非常に高い切迫度であり、対策・減災戦略の検討に向けて、神戸大学海洋底探査センターでは鬼界カルデラを中心に海底観測に力を入れていると明かした。
 最後に巽氏は、「日本で暮らし続けるには何をすべきか考えることが大切」と訴えた。

決  議

 2017年4月に予定していた消費税率10%への引き上げは先送りされ、社会保障の充実策と、財政再建策の両立はますます遠のいた。社会保障費の抑制がさらに加速し、厚労省の医療費適正化計画、地域医療構想の名目で、病床数の規制、医療費支出の上限の設定など、「安心につながる社会保障」は名ばかりのものになろうとしている。
 消費税引き上げは延期されたが、医療機関の経営を脅かす控除対象外消費税問題は未解決課題であり、国民や医療機関の負担増につながらない抜本的解決が図られなければならない。
 医療特区における規制緩和、営利企業が参入できる非営利新型法人の設立、「患者申出療養」の創設、市販品類似薬の保険外し、セルフメディケーションの推進、医薬品のネット販売拡大、次世代ヘルスケア産業の推進など、さまざまな医療の自己負担化や営利産業化への施策が示されている。市場原理を医療に導入する動きは、国民皆保険制度を崩壊させ、個人負担をさらに増加させることにつながり阻止されねばならない。また、高額医薬品保険適応については、医療保険財政の崩壊につながりかねず、現状のルール変更も含めた個別の対応が必要である。
 新専門医制度の来春からの全面実施は見送りとなったが、医師の偏在による地域医療提供体制への影響や総合診療専門医養成の問題等、未解決な問題も多く、導入に際しては十分に議論の時間をかけるべきである。
 我々は、将来にわたり我が国の医療制度を維持・発展させるという観点に基づき、以下の点を政府に要望する。

一、国民皆保険制度を堅持せよ
一、医療のための財源確保に努めよ
一、控除対象外消費税問題を抜本的に解決せよ
一、医療の営利産業化に反対する
一、保険医療財政を崩壊させない高額医薬品保険適応のルールを策定せよ
一、地域医療提供体制に悪影響を出さない地域医療構想、新専門医制度を検討せよ

   平成28年9月4日 近畿医師会連合定時委員総会

近医連総会 分科会報告(概要)
第1分科会/医療保険
医療・介護同時改定への課題

 第1分科会では、松本純一・日本医師会常任理事が中医協に関する最近の話題を講演後、今春の診療報酬改定の問題点と医療・介護同時改定に向けた課題について意見交換。加えて総会に上程する決議案を協議した。
 講演で松本・日医常任理事は、高額薬剤への対応、審査支払機関の在り方、指導・監査などを話題提供。高額薬剤の総額高騰に対し、特例による市場拡大再算定に加え、最適使用推進ガイドライン策定・運用が図られるものの、これらの議論はあくまでも医師の裁量権を前提に協議に臨むと述べた。
 意見交換では、薬価引き下げ財源が本体改定財源に充当されず既成事実化されていることに問題意識を共有したほか、外来受診から在宅医療へと寄り添う「かかりつけ医機能」の再評価が提案された。また、湿布薬の1処方当たり枚数制限を概ね妥当としたものの、超過時に調剤料や処方料等の算定を不可とする懲罰的手法の拡大が懸念された。一方、課題としてフレイル予防や認知症の早期発見、ロコモティブシンドローム予防に医療が多職種とともに果たす役割を評価すべきとしたほか、医療と介護の給付調整の見直しなどバランスの取れた改定を望む意見が述べられた。
 武本優次・大阪府医師会理事は、後発医薬品の使用促進に伴う医療費縮小効果の報告がないと指摘。高井康之・府医副会長は、かつて医療機関に対する薬価差益への批判があったが、医薬分業体制が整備された後、大手調剤チェーン薬局がスケールメリットを活かして内部留保していると問題視。診療側として中医協論議の際、財源確保のひとつの手段として検討を要請した。更に、集団的個別指導は医師会主催で実施する方が実効を上げやすいと述べた。
 この後、決議案を確認の上、総会上程を了承。最後に松本・日医常任理事は、医療財源の確保は厚生労働省を納得させた後に、厚労省と財務省で交渉が必要となると説明し、引き続き、日医への支援を求めた。

第2分科会/地域医療
医療と介護の連携強化

 第2分科会では、地域包括ケアシステムの取り組みに関する協議が行われた。冒頭、釜萢敏・日本医師会常任理事が、医療・介護連携について抱える問題点や状況を教示願いたいとあいさつ。
 引き続き、事前アンケートの結果を基に協議に移った。医療介護連携のICT化は、全域的あるいは地域単位でシステムの構築が進む中、セキュリティに加え、煩雑さや費用面などの課題が指摘された。また、医療と介護の連携については、宮川松剛・大阪府医師会理事が、平成27年7月に市町村および郡市区医師会を対象に実施した調査結果から大阪府の現状を報告。「切れ目のない在宅医療と在宅介護の提供体制の構築推進」「在宅医療・連携介護に関する関係市区町村の連携」――を実施する市町村が少ないとして、府医では在宅医療推進コーディネータの養成とともに市町村担当者にも研修会の参加を呼び掛けていると述べた。更に、中尾正俊・府医副会長が発言。在宅医療・介護連携推進事業では、市町村が郡市区医師会に部分的であっても委託すべきだが、地域によって温度差があり、病院に委託するケースもあると述べた。その上で、他府県の状況を問うとともに、郡市区医師会が主導権を握り、推進していくべきと強調した。
 また、認知症施策では、各府県での認知症初期集中支援チーム活動や認知症ケアパスの作成などの取り組みが発表された。阪本栄・府医理事は、府内のある2次医療圏で始まった国のモデル事業を説明。府が実施主体となり、市町村では十分に提供できない機能を2次医療圏で考えていくことが目的と見通し、これに対する日医の見解を尋ねた。釜萢・日医常任理事は、基本的には市町村が対応すべきとの見解を示す一方、困難事例に対する、都道府県や府県医師会のサポートが重要とした。加えて、本協議を総括。ICTのセキュリティでは医師資格証の活用を促した。また、在宅医療・介護連携事業では、委託を含めて、医師会が中心的な役割を担うよう要請。在宅医療に理解が深いキーマンとなる医師が増えることで円滑に進むと期待を込めた。

第3分科会/医療安全
事故調およびインシデント・アクシデントレポートへの取り組み

 第3分科会は医療安全「医療事故調査制度のその後と医師法21条の改正案」「各府県におけるインシデント・アクシデントレポートへの取り組み」について協議した。
 まず、各府県が医療事故調査制度にかかる相談およびセンターへの報告件数を説示。事故調・支援センターや厚生労働省の想定よりも少ないが、「医療現場としては、報告数は少ないほどよい」との見方が示された。同制度においては、共通マニュアルの周知や財政支援などを求める意見や、「医療側・患者側双方の誤解を招く」とし、制度の名称変更の要望がなされた。これに対し、松原謙二・日本医師会副会長は、「同制度の創設の趣旨は、医療現場への司法介入阻止が目的」とコメント。制度が定着し、世間の評価も得られれば名称変更も可能となるのではないかと見通した。

医療安全体制の構築を推進

 大阪府医師会からは、大平真司理事が発言。制度趣旨に沿って取りまとめた「報告対象事例の考え方」「遺族対応の方法」「院内調査委員会の手順」などについて説明した。また、平成16年から「医療安全対策指導者育成・研修事業」を大阪府委託事業として実施し、インシデント・アクシデント等の研修を通じて、医療安全体制の構築を目指していると強調した。
 更に、医師法21条の改正に関して議論が展開され、各府県とも法文の改正ではなく、立法趣旨である「犯罪捜査への協力」の原点に立ち戻ることが大切とした。その上で、医療関連死に刑事訴訟法が適用されない方策が重要との共通認識が改めて確認された。
 最後に松原・日医副会長が総括。医療事故調査制度の外部委員を対象とする実践研修の計画や、支援団体への予算措置の確保を明かした。そのほか、医師法21条の罰則規定削除に関しては、新たな枠組みに基づき国民の理解を得る必要があるとの見解を示した。

第4分科会/災害医療
JMAT活動が円滑に進む仕組みづくりを

 第4分科会は災害医療をテーマに協議が展開された。まず石川広己・日本医師会常任理事があいさつ。地震や台風などの自然災害が多い我が国における救急災害医療対策の重要性を指摘し、積極的な意見交換を求めた。また、佐藤愼一・日医理事(兵庫県医師会常任理事)は、災害発生時においても人命を守ることは医師の責務であると強調。平時から対応を協議しておく必要性を語った。
 協議では、今年4月に発生した熊本地震での活動を踏まえて意見を交わした。JMATの組織化について、「登録していても災害発生時に出動できないケースがある」との意見が多く寄せられ、恒常的組織は必要としつつも、支援・受援を円滑に行う仕組みづくりが重要であるとの見解が示された。また、災害時における要援護者や入院必要患者への対応として、日頃から行政と情報を共有しておく必要があるとの指摘がなされた。そのほか、熊本地震で問題となった災害関連死などの二次災害を防止する取り組みが議論された。
 鍬方安行・大阪府医師会理事は東日本大震災発災後から府医が実施している「災害外傷初期診療研修会」について紹介。昨年度までに医師354人、看護師672人が受講しており、本研修会の修了者にJMATの打診を行っていると述べた。また、発災時には災害医療コーディネーターの役割が重要になると指摘。研修会の開催などにより地域コーディネーターの育成と理解を広めることで、災害時の混乱を抑えられると同時に、自立した災害医療が展開できると見通した。
 更に、平成24年に締結した近医連「災害時における相互支援に関する協定書」に関して、近畿府県外へ広域的に対応できるよう拡張すべきか協議を行った。加納康至・府医副会長は、自然災害は発生場所や規模によって被害状況が異なるとして、「柔軟に対応すべき」と言及した。
 最後に石川・日医常任理事が総括。日医としては、JMATの活動マニュアルの作成やコーディネーターの育成・研修に積極的に取り組みたいとして、災害発生時への協力を要請した。