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SaaSとAIの協調

府医ニュース

2026年3月18日 第3138号

 令和8年1月、米国による軍事行動によってベネズエラ大統領のニコラス・マドゥロ氏が拘束された。この軍事行動では、大規模データ分析企パランティア・テクノロジーズのシステムを通じてAIが分析に使用された可能性が報じられた。使用されたAIの開発元のひとつであるアンソロピック社のCEOダリオ・アモデイ氏は、このAIの不適切利用に反対し、米国政府と対立している。しかし、この報道はかえってAIの優位性を示す宣伝になった。すなわち、従来の分析基盤や専門家の判断と統合することで効率が高められる。AI単独で既存システムを置き換えるのではなく、補完的に機能している典型である。
 現在、経済界では『SaaSの死』という表現が話題となっている。SaaS(Software as a Service)とは、インターネットを通じたソフトウェア提供サービスである。8年1月アンソロピック社がAIを用いた協働型開発支援ツール「コワーク(Cowork)」を発表したことに端を発し、従来のSaaS企業がAIに置き換えられる懸念が広がり、象徴的な文言として用いられるようになった。AIが登場した当初から、人間の仕事がAIに代替される不安は存在していたが、SaaSはその「第一波」として注目された。
 これらのAIツールは、従来SaaSを利用して業務を行ってきた企業を主な対象としている。医療機関に例えるなら、電子カルテシステムの下、経理・診療・事務など複数の部門それぞれに専門職が配置され、組織の方針が決定される。「コワーク」は、AIが各部門の業務を横断的に処理し、意思決定までを支援する統合システムと考えれば理解しやすい。
 しかし、AIによって直ちに完全なインテリジェントシステムが実現するという見方は早計であり、現実的には人間や既存のソフトウェアと組み合わせて利用されている。実際、現在のAIは理論的統合や推論には優れていても、状況依存の判断や現場対応には限界がある。これは、Physical AIの領域においても同様であり、データ処理能力と実世界での適応能力の間には依然として大きな隔たりが存在する。
 『SaaSの死』という表現は、実態を正確に表すものではない。むしろ、AIとSaaSの関係は競合ではなく協調に向かっていると考えるべきである。AIは既存のソフトウェアや人間の業務に組み込まれることで、生産性を大幅に高める役割を果たしている。(晴)