TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

新春鼎談

地域を面で支える持続可能な医療提供体制確保に向けて

府医ニュース

2026年1月7日 第3131号

 令和4年6月に第21代日本医師会長に就任後、全国を回りながら都道府県医師会・郡市区等医師会との連携の強化に努め、精力的に中央に現場の声を届け続ける松本吉郎・日医会長。7年7月20日に行われた第27回参議院議員選挙において、社会保障関係トップとなる17万4434票を獲得し、新人で初当選を果たした前日医副会長のかまやち敏・参議院議員。大阪府医ニュースの新春特集では、加速する医療界の窮状への理解を深化させるため、ますます発信力が求められるお二人と加納康至・大阪府医師会長による鼎談を実施。各地の関係団体から物価高騰や賃金上昇などに対応できる8年度診療報酬改定における大幅な引き上げが要望される中、今後に向け、意見を伺った。(進行=大平真司・府医理事)

加納 康至(かのう やすし) 大阪府医師会長

 昭和29年、愛知県生まれ。55年神戸大学医学部卒業。専門は循環器内科。桜橋渡辺病院、淀川キリスト教病院などを経て、平成4年から加納内科(大阪市北区)で勤務を開始。12年にクリニックを継承し、現在に至る。府医では、22年4月~28年6月まで理事、28年6月から令和6年12月まで副会長、7年1月から会長を務める。同年3月に日本医師会理事に就任。2年秋に厚生労働大臣表彰(医療保険制度功労)と藍綬褒章を受ける。趣味は音楽鑑賞(ジャズ)。

松本 吉郎(まつもと きちろう) 日本医師会長

 昭和29年、山口県生まれ。55年浜松医科大学医学部卒業。専門は皮膚科と形成外科。同大皮膚科などを経て、63年に松本 皮膚科形成外科医院長となる。平成23年4月に埼玉県医師会常任理事、26年6月に大宮医師会長、28年6月に日本医師会常任理事就任。令和4年6月より同会長を務める。27年に藍綬褒章を受章。趣味は日本のお城巡り。

かまやち 敏(さとし) 参議院議員

 昭和28年、群馬県生まれ。53年日本医科大学医学部卒業。専門は小児科。同大学付属第一病院での小児科医員を経て、63年に小泉小児科医院長となる。平成9年に高崎市医師会理事、13年に同副会長、17年に同会長に就任。26年に日本医師会常任理事、令和6年6月に同副会長就任。7年7月の参議院議員選挙において、日本医師連盟の組織内候補として自民党(比例代表)から出馬し初当選。平成30年に藍綬褒章受章。趣味は阿波踊り、茶道。

はじめに

大平 明けましておめでとうございます。私は本日司会をさせていただく府医広報担当理事の大平です。よろしくお願いいたします。先生方は日頃ご公務でお忙しくされていますが、年末年始はどのように過ごされますか。
松本 毎年、30日の午前中まで診療しています。年明け4日頃まで休診ですが、その間にレセプトのチェックなどもしますね。年越しは、近場で1泊して、2日、3日は箱根駅伝を見て過ごします。いつもすぐに過ぎてしまい、遠くには行かないです。
釜萢 今回は、30日まで予定が入っていて、あまりお正月気分は感じられません。2、3日程度ゆっくりできればと思っています。
加納 毎年、27か28日頃まで診療をしていて、5日に行われる府医の新春互礼会までの間は家でゆっくりしています。旅行はほとんど行かないですね。
大平 この企画では必ずお尋ねするのですが、お雑煮やおせち料理はどのようなものを召し上がりますか。
松本 故郷の山口県では丸餅でしたが、今は、おすましのかき餅です。色々入っていない質素な感じです。おせちは、妻がだて巻きやごまめなど何品か作ってくれます。いくつか購入して、豪華にはしないです。
釜萢 雑煮は関東のすましで、出汁をしっかりとったものです。群馬は焼いた角餅ですね。おせちは出来合いを少し買う感じです。
加納 妻の実家のお餅の上に鰤が乗っているおすましです。愛知県の実家では、赤だしにお餅を入れたものでした。地方によって違うものですね。

昨年7月の参院選から今感じること

大平 松本会長は、昨年7月に行われた参議院議員選挙において、日本医師連盟(日医連)推薦の釜萢先生の後援会長として全国を回っておられました。選挙戦から半年ほど経過しましたが、選挙を振り返っていかがですか。
松本 釜萢先生は、▽長い医師会活動から医師会について熟知している▽日医の医政担当を通じてその重要性への認識が高く、議員の先生方とも関係性がある▽医療関係職種の業務担当の経験から、医師以外の職種の方々とのつながりも多い――という理由で推薦しました。行動力のあるお人柄や地元・群馬の支援者の熱意も大きいです。コロナ禍でのご活躍もあり、釜萢先生が候補に最もふさわしいと思いました。選挙では、介護や福祉関係の方々も一緒に戦いましたが、釜萢先生のお人柄とそれまでの実績があってのものだと思います。
大平 釜萢先生は、いかがですか。
釜萢 立候補を決意するまでは迷いもありましたが、覚悟を決めてからは、本当に多くの皆様のご支援をいただきました。全国を回らせていただく中で本当に力付けられました。感謝の気持ちでいっぱいです。得票数は、厳しいものでしたが、全力で選挙運動をさせていただきました。
大平 議員になられてのお気持ちは。
釜萢 国会議員の方々は、すでに存じ上げている方も多く、非常にお世話になっています。医師会での活動を評価してくださっています。1年生議員ですが、皆様に尊重していただき大変ありがたいです。しっかりと責任を持って、日本の医療・介護・福祉がより良くなるために強く発信していきたいです。
加納 今回の参院選においても大阪は、得票数が課題として残りました。日頃から医政の大切さを訴えていかなければならないと感じておりますので、次回の選挙に向けて今のうちから準備を行ってまいります。

医業経営の危機を巡って

大平 今期も医療機関の倒産件数が過去最多を上回るとの見通しもありますが、その背景には、診療報酬では物価・人件費の高騰分に対応しきれないことや、医師の高齢化による廃業、他産業への人材流出など様々な要因が山積しています。改めて、今どのようにお考えでしょうか。
松本 病院の約7割が赤字です。大学病院の赤字は500億円と言われます。世間では、病院経営の厳しさが注目されていますが、診療所も現在約4割が赤字で非常に厳しいのが実際です。地域医療は点ではなく面で支えますから、病院と診療所が役割分担をして連携することが大切であり、診療所の役割は大きいのです。この状況をご理解いただくために、日医役員総出で国会議員の先生方に説明に回っていますが、国が責任を持って中長期的に経営が安定する仕組みを作るべきです。まずは7年度の補正予算で過年度の不足分への対応をした上で、8年度診療報酬改定で次の改定までの2年間をしっかりと見た改定水準での財源確保ができるよう求めています。
大平 釜萢先生は、様々な団体から要望などを聞かれると思いますが。
釜萢 病院も診療所もともに厳しく、診療所に余力があるということは間違いです。診療科を問わず受診者が減ってきています。大事なことは、待合室が患者さんであふれているようなところではなくとも、その地域にとっては無くてはならない医療機関だということです。また、介護・福祉分野も運営に係るコストの上昇や人材不足など医療界と同様に経営環境が非常に厳しいです。一方で、外から医師会を見てみると、医師会は大きな仕事をしていると改めて感じます。財務省との協議を詰めていく上で、厚生労働省だけでは医療現場のことが訴え切れず、説得力もやや弱いように感じます。松本・日医会長の下、常任理事らが総出で頑張ることで少しずつ状況が変化していると感じています。予断は許しませんが、医師会の役割は非常に大きいです。多くの国会議員に働きかけて、国民に現在の医療・介護・福祉の現場の状況を理解してもらうことが必要です。私も力を尽くしてまいります。
加納 府医では、7年10月2日に、大阪府病院協会・大阪府私立病院協会・大阪府医療法人協会・大阪精神科病院協会と合同で記者会見を開催しました。マスメディアを通じて、府民に対して医療機関の現状を知ってもらうとともに、当たり前のようにある医療提供体制を次世代に伝えるために府民の皆様に協力していただきたいとお伝えしました。特に若い世代は、医療が整った中で育っているので、今の医療提供体制が当たり前だと感じているでしょう。私は会長に就任した頃から、我々の頑張りを押しつけがましいと思われずに伝えられる機会を設けたいと考えていました。国民の理解が得られれば、国の政策にも良い影響が与えられるのではと期待しています。各地から声を上げ、正しい情報を継続的に発信していくことが重要だと考えています。
松本 各都道府県医師会、郡市区等医師会がそれぞれ地元住民の方々から理解を得るための取り組みは非常に重要だと思います。日医でも記者会見をはじめ、様々な情報発信を行っていますが、やはり中央からの発信だけでは限界があります。地域に密着した医師会の情報発信などは、今後ますます重要になってくると考えています。
 あわせて、これまでもお願いしてまいりましたが、地元選出の国会議員への働きかけも強力に行っていただくことが重要です。こちらも日医連だけでは限界がありますし、地元の医師会の先生のお話であれば国会議員の先生も、より丁寧に聞いていただけることも多いです。

新政権発足の影響は

大平 昨年10月に高市早苗政権が発足しました。高市首相は現在の医療機関の経営の危機的な状況を理解され、社会保障の重要性に理解のある発言をされていますが、どのような受け止めをされていますか。
松本 昨年末にかけて、役員総出で国会議員等に要望を行っており、一定の感触を得ました。今後も、手を緩めることなく進めてまいります。高市首相は11月4日の国会で、診療所や病院に緊急的な支援を求める質問に対し、「国民の皆様のいのちを守り、安心して必要なサービスを受けていただくために、経営難が深刻化する医療機関への支援は急を要します」と述べられるとともに、「診療報酬改定の時期を待たず、経営の改善や職員の方々の処遇改善につながる補助金を措置し、効果を前倒しします。経済対策、補正予算に必要な施策を盛り込むべく、施策の具体化に取り組み、スピード感をもって対応してまいります」と回答されました。こうしたお考えは日医が再三お願いしてきた要望と合致していますし、現状認識、危機感ともに共有できていることがはっきりと分かり、心強い思いです。「スピード感を持った対応で医療をしっかりと支えていただける」新首相であると確信しております。
大平 釜萢先生とも連携しながらですね。
松本 はい。釜萢先生は、医師会活動や医療界をしっかりと理解されて、以心伝心で自分が何をすれば良いのか伝わる方だと思っています。ご自分の役割をしっかりと果たしていただけると信じています。
大平 釜萢先生はどのように見ておられますか。
釜萢 高市首相は、所信表明や代表質問、予算委員会での質疑応答においても、信頼感のある素晴らしい方です。一方で、足を引っ張る勢力がないとは言えませんので、医療・介護・福祉の現場を守っていく上で、現時点での最適解を選択できるよう、総理をしっかりとお支えすることが大切だと思います。

令和8年度診療報酬改定ポイントは

大平 診療所に対しては適正化、病院に対してはある程度のプラスが必要といった論調になっていますが、どのようにお感じでしょうか。
松本 次期診療報酬改定においては、「賃金上昇」「物価高騰」「医療の高度化」「高齢化」「過年度の不足分」の項目についての対応がしっかりと行われなければなりません。医療機関は、診療所・病院ともに著しく経営状況が逼迫し、閉院や倒産が相次いでいます。賃金上昇と物価高騰のほか、日進月歩する医療の技術革新への対応も必須です。速やかに財政支援として7年度補正予算を編成し、期中改定もしくはそれに相当する補助を早急に行っていただくことを国に求めてきました。その結果、11月28日に閣議決定された7年度補正予算案では、医療・介護合わせて1.4兆円、医療だけで1兆円超の大規模な補正となりました。さらに8年度予算編成における次期診療報酬改定についても、大幅なプラス改定とするよう特段の配慮を求めています。
 また、民間に賃上げを求めるのであれば、公定価格で運営されている医療機関等において賃上げが可能となる環境を整えることが不可欠です。適正化等の名目により、医療費のどこかを削って財源を捻出するという方法でこれ以上医療費が削減されれば、経営は成り立ちません。前例のない大規模で抜本的な対応、特に純粋な財源の上乗せによる思い切った緊急的な対策が必要と考えています。具体的には以下の5点を要望しています。
1.公定価格で運営されている医療機関等において、経営の安定、離職防止、人材確保が図れるよう、賃上げが可能となる環境を整えること
2.令和7年度補正予算に盛り込まれた、医療機関等への財政支援として速やかに届けること
3.令和8年度予算編成における次期診療報酬改定について、賃金上昇と物価高騰、医療の技術革新に対応した大幅なプラス改定とすること
4.令和8年度診療報酬改定は、医療費財源を削るのではなく財源を純粋に上乗せすること
5.OTC類似薬の保険給付の見直しは、安全性、有効性、経済性の面で国民にとって負担や不利益が大きいことから反対であり、検討を行う際には慎重に行うこと
加納 「診療所の適正化」などと言われますが、適正化しないといけないのは、診療報酬の体系です。うまく回っていないのは、診療報酬の体系そのものが適正ではないということです。
釜萢 先日の会議の中で、予算の増額を求めるのはおかしいといった意見もありました。しかし、社会の基盤である医療・介護・障害福祉のサービス提供側が倒れてしまったら、再び立ち上がることはできません。それを阻止する施策が必要で、そのために出すべきものはしっかりと出すべきだと訴えました。「責任ある積極財政」は、何でも絞ることではなく、全体のバランスをみながらやっていくことだと考えます。

かかりつけ医機能報告制度
1月から報告がスタート

大平 今年度から「かかりつけ医機能報告制度」が施行され、この1月からほとんどの医療機関において報告が始まりました。松本会長がおっしゃる「地域を面で支える」ということを具現化したような制度です。
松本 「かかりつけ医機能報告制度」は、地域のかかりつけ医機能の見える化ができれば、各地域の機能の状況を都道府県が把握・整理することにより、各地域の機能の強みや弱点が明確になります。これらの対応を協議の場で議論・実行していただくことで、地域の面としてのかかりつけ医機能が発揮される体制整備が進みます。
加納 各医療機関の機能の見える化やそれを地域全体で共有することは、患者さんにとっても、地域医療を推進していく上でも大変有意義なことです。この情報を基に、行政も含めて関係者がそれぞれの地域で不足している機能やそれに対する対策などが検討できますので、医療サービスの向上にもつながります。
松本 そうですね。原則すべての医療機関が報告するため、医師会員以外の医療機関や、専門単科についても参加が必要となります。特に専門単科につきましては、自分は関係ないと思っている先生が見受けられます。そうした先生にも周知を進めていただきますようよろしくお願いいたします。日医としても引き続き、都道府県医師会の不安が解消されるよう、丁寧にご説明してまいります。
加納 5年後に予定されている制度の見直しにおいて、かかりつけ医の登録制といった規制的な方向に進む可能性も懸念されますので、多くの医療機関の参画が重要です。今後、診療報酬での評価といったことにつながるとの懸念もあります。
松本 日医からは、そうならないよう主張しておりますし、今後も反対してまいります。二項対立を煽るような分断はいけません。
釜萢 かかりつけ医というのは、患者さんが自由に選ぶものであって、押し付けるものではないということを大切にしたいですね。この取り組みによって地域の医療機能・医療資源が減ってしまっては意味がありません。
加納 府医としても、多くの医療機関の積極的な参画がなされるよう周知し、一層の協力を求めたいと思います。

2026年の目標は

大平 新年号ですので、2026年の目標をお伺いしたいと思います。
松本 地域で健康と命を守るためには、経営状態が良いことが大前提です。中長期的に持続可能であることが必要であり、そういった考えがしっかりと根付くことが大切です。医療は地域にとって基盤になる大事なインフラですので、みんなで盤石にしていくことが使命だと思っています。
釜萢 医療・介護・福祉を持続可能にするということに全力を尽くすことです。個人的には、それを可能にするための活動を大変なことだと捉え過ぎず、感謝し楽しんでいきたいと思います。それが長続きにつながればと思います。
加納 医療機関を守ることに尽力しつつ、府民・国民の意識変革に向けた活動を考えています。難しく大変なことですが、SNSなどを活用しながら、今の医療があって平時の安全が守られていることをしっかりと伝えていきたいです。
大平 国民の声も大切ですね。
松本 はい。皆保険制度のすばらしさを国民の方に伝えることや、自然災害などいつ起こるか分からない有事に備えて、JMATの充実も図りたいです。そして、若い先生方にも日医に入っていただきたい。同じ医師として、それぞれ違うフィールドで働いていても、「みんな一緒に考えながらやっていこうよ」と気楽に参加できるような組織にしたいですね。
加納・大平 本日はありがとうございました。