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〝最後の砦〟を削る国――新自由主義の帰結

府医ニュース

2025年12月3日 第3128号

 全国で熊の出没が止まらない。明らかになったのは、地域の安全を守ってきたハンターという防波堤が失われつつある現実だ。地域の秩序を支えてきたのは制度ではなく、彼らの善意と使命感だった。しかし、その「善意の公共」は確実に限界に達している。
 医療も同じ構図である。財政制度等審議会の分科会(増田寛也分科会長代理)はこの秋、病院より利益率の高い診療所の報酬は「適正化が不可欠」と提言した。しかし零細で赤字経営の診療所も多く、内部留保が潤沢というわけでもない。例えば年間売上数千万円規模の診療所も少なくなく、医師自身が休みを削って対応にあたることもある。多くは一人医師のギリギリの経営努力で継続しているのが現実だ。
 こうした現場を無視して報酬だけを「高い」と切り取れば、地域医療の成り立ちを歪め、診療網そのものを崩しかねない。本来は低く抑えられてきた病院報酬の是正こそが筋であり、セットで診療所報酬を下げる理由にはならない。あちらを下げ、こちらを上げる――そんな緊縮思考の配分調整は、医療者や国民の分断を煽るだけである。
 コロナ禍ではその現実を痛感した。発熱外来を設け、防護具も足りない中、ワクチン接種体制を維持するため地域の診療所が総出で動いた。感染リスクを承知で現場に立ち、患者を振り分け、保健所機能など行政の空白を埋めたのは、ほかならぬ地域の医師達だった。あの時、国も自治体も、診療所の献身を「最後の砦」と呼んでいた。
 社会的共通資本とは、本来社会を下支えする制度資本である。それを構造として守らなかったこの国は、今その報いを受けている。新自由主義によって私達が失おうとしているのは、安全そのものではなく、社会や共同体の基盤そのものである。(真)