
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

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勤務医の窓
府医ニュース
2025年11月26日 第3127号
病院や診療所は単なる医療提供機関ではなく、地域社会で優先されるべき重要なインフラであり、少子高齢化が進行する我が国の人口動態を踏まえれば、時代に合わせ合理的に再整備(厚生労働省が謳う地域医療構想に代表される)される必要性は理解できます。一方、医療インフラは「人の健康を守るサービス」であり、自然からの資源や製品を作り利益を上げる産業ではなく、診療・治療・看護・介護などの人的サービスを提供する第3次産業です。農業・漁業(第1次産業)、製造業・建設業(第2次産業)の変動相場は比較的分かりやすいのですが、そもそも世界に冠たる我が国の医療および医療制度においてはどうでしょうか? つまり、物的(高品質医療機器や医療材料の費用)・質的(多くの多職種の人材を医療安全を考慮しながら配置する必要性)の両面において、激増する支出変動を背景とした医療サービスに対する対価(診療報酬)を測る「物差し(定規)」は分かりにくく、極めて不明瞭と言わざるを得ません。
さて、すでにご承知のとおりSDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に国連で採択された、30年までに達成すべき「17の目標」と169のターゲットからなる世界共通の目標であり、その取り組みは個人、企業、政府など様々なレベルで行われています。医療におけるSDGsとは、「すべての人に健康と福祉を」を中心に、医療機関が持続可能な社会づくりに貢献する取り組みのことです。具体的には医療の質・公平性・労働環境配慮・働き方改革などが含まれ、前述の「17の目標」のうち、①目標3:すべての人に健康と福祉を(BCP整備による災害医療・感染対策の強化、予防医療、医療アクセスの公平性など)、②目標5:ジェンダー平等を実現しよう(女性医療従事者への育児支援による活躍推進など)、③目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに(病院の省エネ・再生可能エネルギー導入など)、④目標8:働きがいも経済成長も(医療従事者の労働環境改善、離職率低下、人材確保など)、⑤目標12:つくる責任/つかう責任(医療廃棄物の適正処理、医療資源の有効活用など)、⑥目標13:気候変動に具体的な対策を(省エネ設備導入、脱炭素経営の推進など)、⑦目標17:パートナーシップで目標を達成しよう(在宅医療や多職種連携による地域包括ケアの推進、行政/企業との協働など)――などが該当するでしょう。
では、我が国の医療の持続可能性はどのように達成されるべきなのでしょうか? 27年から始動する「40年およびその先を見据えた新たな地域医療構想」は、我が国の医療の持続可能性が反映されたものと考えられます。
しかし、本構想が単に将来の我が国の人口動態分析からの医療需要予測に基づいたものであり、高齢化に伴い増加する救急医療・在宅医療などの多様なニーズに応えるため地域の提供体制を強化し、医療従事者の確保や働き方改革を進めると同時に医療DXの導入を見据えた医療業界の経営基盤の安定化との双方向性が無く設計されたものであれば、現状の病院の危機的な運営状況下では直ちに受け入れがたく、「木を見て森を見ず」の感は拭えません。医業収益を次代の医療への投資(医薬材料費や医療機器の更新はもとより、医療職場環境の整備・研究医の養成・国産の創薬・高度医療機器の開発など)に充てられてこそ、真に医療の持続可能な目標が達成されるのではないでしょうか。
拙文をお読みいただき、誠にありがとうございました。
関西電力病院副院長
藤本 康裕
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