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十四大都市医師会連絡協議会

府医ニュース

2025年11月26日 第3127号

有事と平時の医療体制

 第64回「十四大都市医師会連絡協議会」が10月18日・19日の両日、京都市内のホテルで行われた。本協議会は、昭和39年から政令指定都市医師会などが主務地を持ち回りで開催。今年度は京都府医師会が主幹を務めた。

 1日目の午前には、会長会議、総務担当理事者会議などが実施された。その後の全体会議に先立ち、主務地医師会長としてあいさつに立った松井道宣・京都府医師会長は、今回のメインテーマ「有事と平時の医療体制――大都市医師会の役割」に言及。大都市医師会による人口減少地域への医療提供の必要性を語り、協議会での活発な意見交換が新しいアイデアに深化することに期待を寄せた。
 加納康至・大阪府医師会長は、大阪で開催される「第32回日本医学会総会2027」を案内。医療と社会のつながりを再考する多彩なプログラムを組んでいると述べ、多数の参加を呼びかけた。
 3分科会では、各医師会が取り組みを発表し、意見を交換した。
 懇親会では、松本吉郎・日本医師会長をはじめ、自見はなこ・前内閣府特命担当大臣、かまやち敏・参議院議員、西脇隆俊・京都府知事(古川博規・同副知事代読)、松井孝治・京都市長(吉田良比呂・同副市長代読)らが祝辞を述べた。
 2日目には、次期診療報酬改定での大幅な引き上げ要求など3項目を決議した。

第1分科会

 「医師の地域偏在と診療科偏在」をテーマに、若手医師の派遣等、大都市医師会に何ができるかを多角的に議論。府医からは阪本栄副会長が、医師少数区域に指導医(専門医)を一定期間派遣する仕組みを紹介した。大阪府における令和8年度の内科専攻医は、新たなシーリングの考え方を基に、特別地域連携プログラムが0枠となったことを問題視。シーリング枠外の加算など派遣元病院への明確なインセンティブの必要性を訴えた。

第2分科会

 「救急医療体制――高齢者救急、搬送困難対応などこれからの救急医療体制のあり方」と題し、3つの論点で各都市の取り組みや課題を共有。府医からは前川たかし理事が、大阪市浪速区の「ブルーカードシステム」による急変時に備えた体制や、平時からの多職種連携に向けた「Aケアカードシステム」を詳説した。また、高齢者施設での「囲い込み」問題にも言及。「良貨が悪貨を駆逐するような体制が構築されなければならない」と説いた。

第3分科会

 「災害医療支援――南海トラフ等、将来の大規模災害への備えと支援体制のあり方」をテーマに、行政・関係機関との連携や受援時・支援時の医師会の役割などを協議。府医からは宮川松剛副会長が、郡市区医師会との連携によるJMATチームの編成を説明した。大都市医師会には、「長期的な支援体制の確保が求められる」とし、チーム編成の過程や物品・交通手段・宿泊場所の手配、費用負担など派遣に係る手続きを解説した。

2日目:特別講演と閉会式 次回は札幌市で開催

 松本・日医会長は中央情勢を報告。日医総研の「令和7年診療所の緊急経営調査」を基に、5・6年度の経営状況は各地域で診療科によらず悪化していると指摘し、次期診療報酬改定では、▽賃金上昇▽物価高騰▽医療の高度化▽高齢化▽過年度の対応不足分――への対応が必須とした。
 OTC類似薬を巡っては、OTC類似薬が保険適用から外れた場合に、患者の費用負担や受診遅延、健康被害が増大すると問題視。当件への理解の不十分さに警鐘を鳴らした。
 そのほか、かかりつけ医機能報告制度や医師会の組織強化について見解を述べた。
 続いて、村田吉弘氏(菊乃井三代目主人)が、「日本料理とは何か」と題し講演した。
 村田氏は、日本料理の本質は、①引き算の料理②少量多品種低カロリー③うま味を中心に料理を構成――と解説。水と米の文化により発展した調味料や脂質が低い日本料理におけるうま味の役割について説明を加えた。
 閉会式では、次回主務地を担当する札幌市医師会に引き継がれ、盛会裏に幕を閉じた。

決 議

 物価高騰・賃金上昇・人材不足など医療を取り巻く環境はより一層厳しさを増しており、病院・診療所の経営は危機的な状況に陥っている。このままでは全国各地の医療機関が休止・閉院し、地域の医療提供体制が崩壊しかねない。
 骨太の方針2025では、長年続けられてきた社会保障関係費を抑制する「目安対応」が見直され、経済・物価動向等を踏まえた対応分を加算することが明記されたが、医療機関の経営を安定的に維持させるための診療報酬の引き上げが必要である。また、診療報酬で確保することが容易でないものには補助金などで対応することが求められる。
 人材不足については、民間の人材紹介サービス会社に依頼することが少なくなく、人材紹介料として本来の保険財源の相当額が医療外に流出している。これは社会通念上あるいは政策上からみて、公的財源の流出、医療費抑制政策との整合性、モラルハザードなどの問題をはらんでいる。
 一方で、新たな地域医療構想を検討するにあたっては、医療圏にこだわることなく、地域の実情に即した医療提供体制を構築し、その中で個々の医療機関はどの様な役割を果たすべきか見極める必要がある。かかりつけ医機能の強化や地域包括ケアシステムを深化・推進させ、医療機関同士の連携・協議のもと、将来に向けて切れ目のない医療提供体制を構築していかなければならない。
 将来にわたり地域の医療提供体制を確保し、国民が安心して医療を受けることができるために、以下の対応を強く要求する。



一、国民皆保険制度を堅持し、病院・診療所の経営を安定させるために、令和8年度診療報酬改定では大幅な診療報酬の引き上げを求める。
一、人材の確保は、少子高齢化社会の重要な課題であり、その解決に向けて、適正な仕組みと十分な財源の確保を求める。
一、地域包括ケアシステムをさらに深化・推進させるため、医療機関同士の緊密な連携による面としてのかかりつけ医機能を発揮できる予算措置を含めた施策を求める。

令和7年10月19日
第64回十四大都市医師会連絡協議会