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医師・医療関係者のみなさまへ

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時事
府医ニュース
2025年11月5日 第3125号
厚生労働省は8月28日に第3回「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」を開催し、「保険者及び医療関係者・学識経験者」から4人の参考人が制度のあり方について意見を述べた。
日本航空健康保険組合理事長の岡敏樹参考人は、健康保険組合の役割には「保険給付」と「保健事業」があり、保健事業の実施は保険者機能としては重要事項であるが、高齢化・医療費高騰を背景とした財政の悪化という困難な問題を抱えている。その原因の中心は高齢者拠出金の増加であり、組合共通の声は高齢者拠出金の負担を減らすことだ。高額療養費制度は、組合の加入者、すなわち現役世代にとっても重要なセーフティネットとして高いニーズ、期待を有している。上限引き上げなどの見直しはしたくないという思いは組合も同じである。しかし、医療費が増大し、現役世代の保険料負担が限界にある中で、医療保険制度を維持していくためには、高額療養費制度を含めた幅広い項目について負担と給付の全体の見直しを行っていくことは避けられないと考えるので、制度を維持していくための当委員会での議論を期待すると結んだ。
計機健康保険組合常務理事の日原順二参考人は、組合の紹介に続いて、支出の内訳は加入者の保険給付費が50%、高齢者拠出金が40%というのが実態であり、現状の過度な支援金を含め、各制度の先送りは保健事業を圧迫し、医療保険制度の持続可能性を損なうものと考える。保険給付を行うに当たっては、その負担と給付のあり方は財源に限界があることから、各保険者の収支だけではなく、公費を含めた検討が必要である。高額療養費制度、医療保険制度は経済的な破綻を予防するためのセーフティネットとして重要な役割を担っている一方で、医療の高度化や高額薬剤の保険適用は、医療保険財政を圧迫している。今後、さらなる医療の高度化が進む中で、高額化していく医療費のあり方をどのように考えていくかを今一度検討いただきたいと述べた。
医療関係者・学識経験者として東京大学大学院医学系研究科教授の康永秀生参考人は、高齢者など世代全体の自己負担割合を引き上げる政策は、医療費適正化にある程度資するとともに、患者の健康状態への影響は限定的である。しかし、これまでの常套手段であった「自己負担増」を、高額療養費制度に一律に適用することは、患者の家計や健康面での悪影響を否定できないので、全く意味が違い、一律の適用は困難である。今後の医療費適正化政策の立案に当たっては、一律の負担増ではなく、個々の医療サービスの効果と費用の両方を分析することが必要と述べた。
最後に、国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院呼吸器内科長の後藤悌参考人は2014年以降、薬効別の薬剤費では悪性腫瘍が1位となっており、当時7400億円であった薬剤費が、現在では1兆円を超えるなど、非常に速いスピードで増加している。現行の高額療養費制度の課題として「医療費の算定や請求が「暦月単位」であること」「制度が複雑であり、患者負担がどの程度になるか分かりにくいこと」「負担上限額が固定されているため、コストを意識せずに治療薬を決定しているケースがあること」などが挙げられる。また、日本は医療費抑制のため、薬価の引き下げを行ってきたが、マーケットの魅力が低下することによって、日本で薬を開発しない、薬が届かないという問題が起きている。「新しい薬は使いたい」と同時に「薬の価格を安くしたい」というのは難しいのではないかと考えている。日本の保険制度はほとんどの有効な治療を提供できるすばらしい制度ではあるが、持続可能性という観点から問題があるので、高額療養費制度を維持しながら、新薬も含めて、よりよい治療を患者に提供できるかという点が今後の課題と指摘した。(中)