TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

勤務医部会活動報告

働き方改革を味方に付けよう

府医ニュース

2025年10月29日 第3124号

 9月4日に開催した大阪府医師会役員と府医勤務医部会役員との懇談会では、阪本栄・府医副会長が行政との連携について、宮越一穂・勤務医部会常任委員が医療経済の逼迫の問題を発表して始まった。神崎秀陽氏(関西医科大学常務理事)は、以前遅々として進まなかった働き方改革が、数年を経てやっと形になったことを発表された。先陣を切る大学には、かなりの努力が必要だったと思う。法律で縛られているが故に、医療界の動きは悪かった。しかし、働き方改革は通過点に過ぎないため、早々に過程を済ませて、個々の研究テーマに重点を移していくべきである。コストが増加したとしても、離陸のためのエネルギー投入は必要である。今後の改革でゆっくりと人員やコスト削減に取り組めば良いと思う。やらされ感を持ちながら、ダラダラ改革の真似事を継続することだけは避けたい。大学が働き方改革を経て、新しい体制の中でノーベル賞受賞が続く、創造的な研究に邁進する姿を期待するものである。
 大矢亮氏(耳原総合病院副病院長)は、堺市医師会勤務医部会アンケートの結果を発表された。現在の専門医制度に関しての若い医師の感覚を良く捉えている。まず専門医を目指す医師は、医師会に関心が少ない。それは医師会への参加で、専門医制度が変わる可能性を知らないからではないだろうか。アンケートの回答は指導医171人、専攻医51人、初期研修医42人という中で行われた。大学卒業後に研修病院だけの生活を送ると、専門医機構は絶対的な存在として意識付けられる。これはかかりつけ医機能報告制度の中で、日々生き残りをかけた戦いを送る地域医療機関とは大きな差がある。専攻医や初期研修医が指導医になると色々経験するため、「現行制度は若手医師の教育には適さない」「地方派遣はなるべく避けたい」という回答に変化している。もし自己で決めた制度なら、率先して地方派遣に行き、大阪に残した専門医制度を守る気迫のある回答が出てきても良い。やらされ派遣は医師偏在の根本的解決にはならない。私は専門医制度に関与する医師会活動の広報を、もっとやるべきという感覚を持っている。現行専門医制度への医師会の関与は大きいが、根源で活動するため良く理解されない。医師会活動の実態を効果的に伝えていく方法論を開発することが重要と思われる。
 村上城子・同部会常任委員が発表した泉州の問題に関しては、もう何年も前から医師不足が継続している。今回も同様の問題点が挙げられた。医師数の少ない小児科には当然患者が集中し、過去の医療崩壊の既視感かと疑うほどだ。当時はコンビニ受診という患者の利便性が中心の世論で、医師個人の犠牲は二の次という風潮が席巻していた。患者の犠牲はマスコミが即応するので行政も後手で動くが、医師の犠牲に関しては黙認されたと思う。行政サイドが悪いというわけではない。実際、具体的なアイデアがあれば即応はしてくれるが、現行は医師派遣へ資金援助程度の対応である。この繰り返しだ。行政も逼迫する予算の中で、救急施設の統合のような、莫大な資金がいる計画は論外で、真剣に考える体制にはなっていない。一度医師の犠牲に乗っかる体制が形成されると、小さなエントロピーの谷を脱出できずに、医師側も人柱的派遣には尻込みをしてしまう。しかし以前の医療崩壊と今回の泉州2次医療圏の問題を比較すると、大きく異なるのは、働き方改革が背後に存在することである。患者の犠牲は禁句であるが、働き方改革は法律で規定されており、逸脱する外来勤務があれば、将来的に閉鎖するくらいの気合いの入った論理で臨まない限り、細部の議論に囚われて改革が停滞し、エントロピーの谷を脱出できなくなる。この秩序転換の契機を行政に自覚させることが、泉州前進のための突破口と思われる。
 阪本副会長が発表された日本医師会や行政との連携にとどまらず、医師会員は各地区において交渉できる立場にある先生方が多い。今回発表された問題点に関しては、各先生方の現場での活動に期待するとともに、医師会内で討論して全体との整合性を図っていくことが、今後の医師会の方向性と感じた。

府医勤務医部会副部会長 幸原 晴彦