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医師・医療関係者のみなさまへ

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時事
府医ニュース
2025年10月29日 第3124号
厚生労働省の社会保障審議会・医療保険部会では、令和7年9月から10月にかけて、第197回(9月18日)、第198回(9月26日)、第199回(10月2日)の各会合が開催され、次期診療報酬改定(8年度)や医療保険制度の持続可能性を巡る議論が行われた。①全世代で公平に支え合う仕組み②医療保険制度を持続可能とするための給付と負担の見直し③予防・健康づくり、ヘルスリテラシーの促進④医療現場を取り巻く環境の変化への対応――が論点として取り上げられ、制度改革の方向性が具体化している。
9月18日の部会では、8年度概算要求と医療費動向が報告され、物価・人件費上昇を背景に医療費の伸びが止まらない現状が共有された。その中で、財政健全化の名の下に「医療費削減」が強調されすぎることへの懸念も出された。医療費の中には確かに「無駄とされる部分」が存在するが、単純な〝削減〟が「必要な医療」まで抑制する結果につながりかねないとの指摘である。
9月26日の会合では、診療報酬改定の基本方針づくりが中心議題となった。厚労省は「質の高い医療の維持と効率化の両立」を掲げ、医療DXの推進、予防・健康づくりの重視を打ち出した。一方で、議論の中では「低価値医療(Low-Value Care)」や「無価値医療(No-Value Care)」と呼ばれる、患者にほとんど利益をもたらさない医療行為の是正がキーワードとして浮上。不要な検査や漫然とした投薬を減らす方向性は理解できるものの、定義が曖昧なまま制度的抑制が進めば、個々の臨床判断が軽視される危険もある。
10月2日の部会では、「病床転換助成事業」や「健診結果の電子化」、「健康づくりへのインセンティブ付与」が議論された。これらはいずれも効率化と予防を重視する流れに沿うものだが、制度改革全体が「費用対効果」中心へ傾きすぎることで、現場における〝守るべき医療〟までが「低価値」とみなされる可能性がある。特に慢性疾患や高齢者医療の分野では、画一的な効率化指標が患者の多様なニーズをすくいきれない恐れがある。
国際的にも「低価値医療」削減は重要課題とされ、米国のChoosing Wiselyキャンペーンなどは医師自らが「やめるべき医療」を選び出し、患者と共有する文化を根付かせようとしている。一方で、日本では「低価値」「無価値」という用語が財政論の文脈で強調されがちで、医療現場の裁量や患者との対話が軽視される風潮が生まれつつある。医療保険部会での制度設計にも、こうした国際的議論のバランスを踏まえた慎重な判断が求められる。
医療費の「適正化」は目的ではなく手段であり、真に価値のある医療とは、患者にとっての安心と納得を伴うものである。大阪府医師会としても、低価値医療の削減を目的化するのではなく、「患者の利益」「地域医療の質」「医療者の専門的判断」という3つの視点を守りつつ、制度改革の行方を注視していく必要があるだろう。(隆)