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医師・医療関係者のみなさまへ

宮川・北村両副会長、地域医療や医業経営などを語る

府医ニュース

2025年10月15日 第3123号

地域医療を様々な角度から支える

 今年7月、北村良夫先生が副会長に就任し、昨年6月に副会長に就任した宮川松剛先生がしばらくの静養から会務に復帰。今回は、ともに平成22年に大阪府医師会執行部入りをした両副会長に、大平真司理事が今後の取り組みなどについてインタビューした。

大平 本日は、両副会長に、現在考えておられる課題やこれからの展望などについてお伺いしたいと思います。同期で府医執行部に入られましたが、当時のお互いの印象は覚えていらっしゃいますか。
宮川 記憶力が本当に凄いと思いました。数字にむちゃくちゃ強い。本会役員などの誕生日もよく覚えておられる。今もその印象は変わりません。
北村 大変体格がいい人だと思いました。学生時代は、100㍍を12秒台で走り、西日本医学生総合体育大会の円盤投げで優勝したと聞いて驚きました。
大平 ありがとうございます。まずは、北村副会長からお伺いします。この度は、副会長ご就任おめでとうございます。就任から3カ月が経過しましたが、お気持ちに何か変化はございますか。
北村 そこまで大きな変化はないですが、やはり重責を感じます。私の生きる目的は、①自分が自分を好きになる②自分を含めた全世界がなぜ存在するのかを少しでも知る③自分が所属する団体が、ほかの団体に「つまらない所だな」と思われないように努める――ことですが、特に③について、自分が府医にとって少しでも役立つ存在でありたいと思います。今は、役員の先生方の助言や事務局のサポートを受けつつ、どのように動けばより良いか試行錯誤中です。会員の先生方にもぜひご指導・ご鞭撻いただきたいです。
大平 会計部門や医業経営、保健医療センターなど、数字に関わる所管が多く、宮川副会長がおっしゃられたとおり、数字に強い印象があります。昔からそうだったのですか。
北村 小学校2年生の終盤から中学校2年生の初めまで、約5年間そろばんを習っていました。近所の非常に熱心なそろばん塾に行ってみたら、自分に向いていて、辞める時には珠算検定4段でした。小学生10人が、1970年の大阪万国博覧会(70年万博)の「万国そろばんショー」で簡単な競技をしたのですが、私は満点を取り、珠算協会から表彰されました。私を推薦した塾長の顔も立ち、自分のためにもなって非常に嬉しかった記憶があります。それが今につながり、ポジティブに数字に向き合えます。
大平 府医の会務について、経理的な立場からどのように捉えてこられましたか。
北村 本会は、会員の先生方の会費で成り立っていることを踏まえ、無駄が出ないように適切に運用することを心がけてきました。昨今の物価高騰・賃金上昇の煽りはもちろん本会も受けていますが、なんとか踏ん張っているのではないかと思います。現在、府医としての社会的使命を大切にしつつ、役員と職員がともに業務の見直しを行っています。会員の先生方やその医療機関が、質の高い医療を提供し続けられるよう、私も全力で取り組んでまいります。
大平 ありがとうございます。そして宮川副会長は、いよいよ会務に復帰されました。
宮川 大変ご迷惑をおかけしておりました。7月から徐々に会務に復帰させていただいています。4月下旬に会長・副会長、事務局の方もお見舞いに来てくださいました。5、6月中は静養しつつ、私の所管業務への問い合わせに対応させていただきました。会長はじめ役員の先生方のおかげで順調に事業が動いていると聞き、安堵しておりました。私がどうしても出席しなければならない会議等は、7月の復帰まで日程を遅らせていただき感謝しております。
大平 宮川副会長は昨年6月にご就任され、この6月で1年が経過しました。主に地域医療を中心に所管され、行政との交渉も多い部門かと思います。
宮川 そうですね。会員の先生方や医療機関の皆様には、大変お世話になっております。医師会は、国民の健康と命を守る専門家の団体として意見しますが、それが必ずしも受け入れられるわけではないというもどかしさの中、どのように我々の現状や意見を伝え、地域医療を守っていくのかはとても大きな課題です。行政や地域医療を支える皆様とうまく協働していくには、「顔の見える関係」の下で、日頃から密に連携することが基本だと思います。引き続き、会員の先生方のご支援をお願いいたします。
大平 大阪・関西万博への医師派遣に尽力されておられました。昔から万博がお好きとも伺いました。
宮川 70年万博は、見るものすべてが新しくカルチャーショックを受けました。当時空手を習っていて、団体で演武を披露しました。歴代の万博はどれも思い出深いです。
 今回府医は、休日・祝日の診療所運営について調整をお願いされたので、昨年からその体制作りを始めました。当初は、東ゲート付近の診療所1カ所の予定でしたが、2カ所になり、出務医師の確保を心配しつつも、70年万博を知っている先生方が多く、ある程度の出務にご興味を持っていただけるのではないかと考えていました。事前調査では、100人以上の先生方からご応募をいただきました。府医から大阪府に提案して1救護所につき2人体制にしていただいたのですが、救急搬送が必要な時に、診療所に医師がいなくなるリスクは避けたかったので、これは非常に大きかったです。
 また、2005年の愛知万博を参考にしたと聞いていましたが、当時からの気候の変化、特に猛暑日などは現状を踏まえた考察が非常に大切なため、当時の熱中症のデータは参考にできないだろうと行政に伝えました。
 あと、今回の万博は、高齢者や身体が不自由な方にあまり優しくないなとも思います。休める椅子やエスカレーター設備、優先入場などが不十分なことが残念です。開催期間終盤に向けて、非常に多くの方々が訪れていると思いますが、おそらく人数制限がかかり適正な規模を超えた入場者は入らないだろうとは思っています。
大平 70年万博を知っている世代の先生方が主力で出務され、それぞれの先生方にとって、大阪・関西万博は特別なものになったのではないでしょうか。

控除対象外消費税問題

大平 地域の医療崩壊の危機が叫ばれており、「ある日突然、医療機関が消えてしまう」ということは、大げさではありません。病院では9割のベッドが稼働しても赤字という状況です。そんな中、消費税の取り扱いが医療機関に大きな影響を与えています。北村副会長は、いわゆる「消費税の損税問題」はどのように決着されるとお考えですか。
北村 医療サービスの提供に係る設備などを準備する際には、すべて消費税が課税されます。一方で、医療サービスは「消費」という考え方が合わないため非課税とされ、社会保険診療は消費税非課税です。国は、消費税率が上がるとその分を診療報酬で補填していると言いますが、実際は補填不足が生じ、医療機関から持ち出しが生じています。また、病院や診療所など、医療機関ごとの補填不足の度合いにも大きな差があります。損税の問題は、色々な考え方が議論されていますが、診療所と病院でニーズが異なるため、なかなか折り合いが難しく、前に進みづらいです。
宮川 病院と診療所を分けて考えるということは、非常にリスキーな部分があるので普段は避けたい考え方です。だた、消費税に関してだけは本当に難しいですね。
北村 現実問題としてはということです。診療所の先生方は、いきなり「課税だ」と言われると大きな負担を強いられることになります。課税分と非課税分をきっちりと整理する事務手続きも複雑で、それと引き換えに今ある医療に対して配慮された施策がなくなってしまうと途端に経営が厳しくなり、特に地域医療を支える高齢の先生方が対応していくことは非常に困難だと考えます。
宮川 国民の立場で考えると、例えば、病院は建物を見てもある程度大きなお金が動くイメージができるので、施設を建築・改修することに対する課税は理解が得られると思います。一方、診療所はそのイメージがなく、診療所に対しては「なぜさらに税金を払わないといけないんだ」というように考える方もおられるだろうという面もあります。
北村 国も「医療費は非課税」としておかないと国民からの反発がきつくなると考えるでしょうから、課税へのハードルは高いと思います。
宮川 政局を見ながら、補填不足のところを何かで補填してもらうように持っていけるかどうかが勝負どころですね。
北村 病院の倒産も続いているので、病院については課税に持っていくように働きかけるタイミングだという考えはありますね。
大平 診療所と病院、それぞれの経営が上手くいってこそ、地域医療を面で支えることができますよね。
北村 はい。府医として、そのバランスが偏らないように意見をまとめることの難しさを実感しています。日本医師会の医業税制検討委員会でも、消費税問題は大変苦慮しておりますが、なかなか結論が出ません。現時点では、日医の方針でも示すように、「診療所は非課税」「病院は課税」にするという方法以外は難しいのではと考えています。病院経営の窮状に対しては、基金などを利用して財政支援をしないと立ち行かないという状況にあります。最終的には道を一つにするべきかとは思いますが、早急の手立ては、今後の日医の対応を見守っていただければと思います。

診療所と病院の連携 地域に合った体制確保

大平 宮川副会長は、長く地域医療を所管されています。地域医療を面で支える上で、「ある日突然、地域の医療機関が消える」と非常に困りますよね。
宮川 もちろんです。現在進行中の「第8次医療計画」では各地域の医療資源が連携して地域医療を支えています。特に、今後は「紹介受診重点医療機関」および「在宅医療に必要な連携を担う拠点(拠点)」がポイントになっています。「紹介受診重点医療機関」においては、その選定が保健医療協議会という「地域の協議の場」に委ねられたことは非常に大きく、地域におけるかかりつけ医と病院機能をいかに連携させるかが重要です。
大平 地域にいてこそ分かることはたくさんありますよね。それぞれ事情も異なります。
宮川 そうですね。病院完結型から地域完結型にシフトしていますので、かかりつけ医と病院が日頃から連携しておくことが求められます。拠点については、先日も取り組み推進に関する研修会を開催しましたが、地域全体を見渡しつつ実情に合わせた体制を整えるためにも、地域の医師会が中心となって取り組むのが良いのではないでしょうか。すでに求められているシステム作りが進んでいる地域もありますので、府医としてそういった好事例を共有する場を提供していきたいです。
大平 年末に向けて拠点事業に関する協議の場も増えますね。
宮川 はい。さらに診療所と病院の連携が大切になっていきます。現在、診療所と病院の運営が非常に厳しいです。また、在宅の患者さんを緊急時に受け入れていくということは、病院に一定の負担がかかっていると考えるべきです。現在の経営状況の中で体制確保が可能なのかという点に関しては、行政に強く認識してほしいですし、理解に向けた活動を進めていかねばなりません。特に、在宅医療をされている医師への支援も求めていきたいと考えています。同じ思いの先生方も多くおられると思いますので、各地域の協議の場でお話しいただきたいと思います。

今後強化するポイント

大平 最後に両副会長が今後、強化されることをお教えください。
宮川 副会長への就任に当たり、はじめて総務的な仕事にも携わることとなり、組織内の体制を、昭和の良さを残しつつ、令和の体制へと図っていければと考えております。これまで地域医療・介護保険・救急の一部を主に担当してきました。地域医療・介護に関しては行政と協力して実行することも多く、意思疎通を図りながら様々な問題に対して当たっていきたいです。救急分野は、南海トラフ地震に対する備えが大きな問題の一つと考えており、発災時の救急医療体制、さらに一般診療体制の維持・確保に向けて、行政と話をさらに進めていきたいと考えます。これには、すべての医療機関の経営が安定していてはじめて成せることです。加納康至会長はじめ府医役員は機会あるごとに日医役員の方々に診療報酬等に対する具体的な要望を伝えております。日医の活動を会員に理解していただきながら、府医として日医を支持していかなければなりません。
北村 会計を中心に経営面を担当しています。府医や保健医療センターの会館の建て替えや、職員の給与など財政面で健全に運用できるように努めます。その中で、医師信用組合・医師協同組合・医師国保組合との協力関係の下、府医の厳しい財政の中でなんとか維持できるような取り組みについて注力していきたいと思っています。消費税問題についても、引き続き頑張っていきたいです。
大平 本日はありがとうございました。