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時事
府医ニュース
2025年10月1日 第3122号
8月29日、厚生労働省が財務省に対し、来年度予算の概算要求を行った。その中には、新規事業として「重喫煙者に対する低線量CTによる肺がん検診実証事業(要求額1.3億円)」が盛り込まれている。取り組む市区町村を公募し、費用の補助などを行うものである。
がん検診は、法律に基づき市町村が実施する「対策型検診(住民検診型)」と、それ以外の「任意型検診(人間ドック型)」に大別される。公共政策としての【対策型検診】は、年齢などで設定された無症状の住民全員を対象として、目的である死亡率の低下とともに、不利益(偽陰性、偽陽性、過剰診断、検査に伴う合併症や不安)の最少化が重視される。ゆえに最も感度の高い検査法が選ばれるとは限らない。有症状者の正確な診断が重要な【診療】との大きな違いである。
厚労省は〝科学的根拠に基づく検診〟を掲げ、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を定めている。現在、国が推奨するがん検診は、▼胃がん(胃部エックス線または胃内視鏡)▼大腸がん(便潜血)▼肺がん(胸部エックス線および喀痰細胞診)▼乳がん(マンモグラフィ)▼子宮頸がん(細胞診および内診。HPV検査単独法は実施体制が整った自治体で選択可能)──の5種類である(いずれも問診を含む)。
関係者に必要な情報を体系的に示した「がん検診事業のあり方」では、指針で推奨されていない検診は、不利益が利益を上回る可能性があるため提供しないことが重要としており、それらが実施される背景要因に、有効性指標や不利益への理解不足を挙げている。
対策型検診としての推奨レベルは、国立がん研究センターによる「有効性評価に基づくがん検診ガイドライン」にまとめられている。今年4月に肺がん検診のガイドラインが改訂され、新たに「重喫煙者に対する低線量CT検査」が推奨グレードA(利益があり不利益が中等度以下と判断:推奨)とされた。対象年齢は50~74歳、間隔は1年に1回が望ましいとしている。一方で、現行の「重喫煙者に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法」は、推奨グレードD(利益はなく不利益ありと判断:実施しないことを推奨)とされた。喫煙率の低下により肺門部扁平上皮がんが激減し、喀痰細胞診によって追加的に発見される肺がんは全国で年間20~30件程度であること、侵襲性の高い気管支鏡の検査件数が増加することを理由に挙げている。
今回の実証事業は、この改訂を踏まえてのものである。「がん検診のあり方に関する検討会」では、一昨年度から開始された、子宮頸がん検診のHPV検査単独法が、複雑なアルゴリズム(陰性では5年後。陽性となり細胞診検査を受け、確定精検不要となった場合は1年後に追跡HPV検査、そこで陰性の場合はその5年後)のためもあり、導入自治体数が極めて低調(今年6月時点でわずかに4)なことの反省からプロセスを見直し、一部自治体による試行的なモデル事業を経て、最終的に導入の是非を検討する方針を打ち出していた。
円滑で確実な実施のためには、現場にとってのハードルの高さも、重要な要素となろう。(学)