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時の話題
府医ニュース
2025年10月1日 第3122号
「社会保障費の自然増には、人口の高齢化と医療の高度化が関与する」と「骨太方針2025」に記載された。40年には65歳以上の高齢者が約35%の超高齢社会となり、現在の1.4倍の社会保障費の負担が現役世代にかかる。現在、健康保険組合から高齢者医療への支援金は総支出の4割を占め、不公平感是正のためには現役世代の負担軽減は不可避である。
高額療養費制度は、現在継続審議中である。高齢者の増加、医療の高度化、高額医薬品の登場により、平成27年から令和3年の高額療養費の伸びは、医療費全体の伸びの約2倍と急速に増加。家計調査では、平成27年から令和5年の期間で、世帯収入は1.6倍に増加。今春、政府は高額療養費の伸び抑制のため、世帯収入の増加を理由に負担増を提案した。しかし、法改正も必要ないためか、患者団体などに丁寧なヒアリングもせず拙速に進めたことが反発の原因となった。高額療養費制度は命に直結する重要なセーフティーネットである。全体としての国民所得が増加でも、がんや難病患者の世帯収入は増加とは限らず、むしろ減少かもしれない。
希少な疾患は別として、高額療養費の大半は、新世代の分子標的薬や抗がん剤である。効果も高く患者の命綱であるが、非常に高額で、1カ月300万円を超える薬剤もある。財源として、OTC類似薬の保険適用除外を主張する代表者がいるが、がん患者やその家族であってもOTC類似薬を処方されれば、今の何倍、あるいは何十倍も薬代が実費でかかる。アレルギー性疾患の患者団体は反対の署名を厚生労働省に提出した。公的医療保険の総医療費は減っても、実費購入の薬代も含めた総医療費は、現在より遥かに多くなる。
7年7月9日、厚労省はアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」の薬価について15%の引き下げを決定。8月6日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会にてこれを了承し、11月1日から実施される。薬価は、年間約300万円(体重50㌔)で、軽度認知障害や軽度認知症の患者が対象で公的医療保険適用である。症例も限定し、投与期間も原則1年半、それ以降は有効性や安全性を評価して継続の判断をする。今回同薬のほか、フォゼベル(高リン血症治療薬)、レクビオ(高コレステロール血症治療薬)、ウゴービ(肥満症治療薬)も費用対効果の結果で引き下げられた。国立がんセンターの某医師は、オプジーボなどの使用を、治療を継続した場合と休止した場合の経過を比較して、使用の継続を決めている。多くの医師が医療コスト意識に向き合うことが重要である。
映画「ジュラシック・ワールド」の中で「画期的な薬を1社で独占すると、莫大な経済的利益が得られるが、世界の約99%の国が恩恵を受けられない。科学は、すべての人類のためにあるのではないか」というセリフがあり考えさせられた。先日、勇退された自民党の羽生田俊参議院議員は「医療保険財政の持続可能性の確保に向けて、日本医師会などの医療提供側からも歳出削減のアイデアを出すべき。何をどう変えれば持続させられるのか、全体的な仕組みを考えて、『ここは手を付けてもいい』『ここはダメ』『ここは増やせる』ということを議論する必要がある」と提言された。
今、国民的議論が必要である。