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府医ニュース
2025年9月17日 第3120号
医療DXは「人手不足の解消」「効率化による負担軽減」として華やかに語られる。しかし待遇改善や医療の質向上につながっているとは言い難い。むしろ低賃金構造を温存したまま現場を回す方便として機能している面が浮かび上がる。
古くリカードは「労働賃金が高くなければ機械は導入されない」と述べ、ヒックスも「高くなった要素を節約する方向に技術革新は誘発される」と指摘した。賃金上昇こそが自動化や省力化を促す契機となる。
しかし日本の医療・介護分野では、診療報酬の実質ダウンによる人件費抑制が長年続き、このメカニズムは封じられてきた。その結果、賃金を抑えたまま効率化の技術導入が進み、人材不足は深刻化し、設備投資も滞る。IT、ICT、医療DXと看板を変え、同じスローガンが二十年間繰り返されてきた。本末転倒のスパイラルである。
当直明けの医師、夜勤明けの看護師が残業して患者記録を入力する姿は典型例だ。少人数運営を前提としたシステム化は、むしろ負担増につながる。「賃金を上げずDXでしのぐ」という論理が働き、待遇改善は先送りされている。
マイナ保険証システムも同様である。制度や診療報酬で縛られ、過重労働の緩和に結び付かず、維持費やトラブル対応は現場の自己責任。DXは職員を支える補助線というより、費用抑制の制度的装置として作用している。
真に人を支える技術とするには、DX導入に付随した限定的な加算だけでは足りない。本来は診療行為のコスト上昇を受け、現場の優先順位に沿って投資が行われ、その後に技術導入が進むべきである。技術は人を補う線であり、自己責任で人を切り捨てる装置であってはならない。
現場から声を上げ、提案を重ねることで、DXは医療者を支え患者を守る力に変わり得る。人への投資の先に技術の進化を位置付ける取り組みこそ、医療の未来を切り拓く力となる。(真)