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府医ニュース
2025年9月3日 第3119号
大阪府医師会は7月26日夕刻、大阪市内のホテルで医療問題研究委員会特別講演会を開催。加納康至会長が座長を務め、二木立氏(日本福祉大学名誉教授・客員教授)が、「『骨太方針2025』の医療・社会保障改革方針の複眼的検討」と題して講演を行い、府医役員や同委員会委員ら約50人が聴講した。
二木氏ははじめに、医療情勢を長期的な視点で考える上で大切なポイントを挙げた。
まず、1970年代は、医療機関は倒産しないという神話があったが、80年代には倒産が多発し、80年代後半から90年代の医療界では「医療冬の時代」論が支配的だったと振り返った。その中で、自身は86年から「医療は安定成長産業」だと主張してきたと言明。その最大の根拠として、厚生労働省が発表している国民医療費の国民所得に対する割合の推計が、長期的に漸増していることに言及した。医療経済学的視点では、医療技術の進歩が医療の質と効果を向上させるとともに、「ほとんどの場合で医療費の増加を招く」と説示。透析医療を引き合いに、質の高い医療に費用がかかるのは常識との持論を展開した。さらに、医療費が漸増することは高所得国の共通点であり、新型コロナウイルス感染症流行初期において、「新型コロナ危機は中長期的には日本医療の弱い追い風になる」と予測したと述べた。
続いて、2022年から24年においては、毎年、医療費・社会保障費抑制が生じたと指摘。①22年のロシアによるウクライナ侵略に伴う防衛費の急増②23年に岸田文雄内閣(当時)が創設した「子ども・子育て支援金」の財源捻出③24年10月の衆議院議員選挙を契機に明らかになった若年世代の社会保障制度への不信感――を3つの「逆流」とした。一方で、社会保険料の負担増については、厚労省などが実施した世論調査によると、国民の多数が容認していることや「賃上げの恩恵を受けても社会保険料などに消え、手取りが増えない」といった意見もあるが、負担の増加は世帯収入増加分の2割弱にとどまり、事実ではないことを加えた。
二木氏は、「骨太方針2025」を複眼的に考察するよう促し、最も注目すべき点として、医療に関連する社会保障費抑制の見直しの明記を挙げた。特に、本文に「格上げ」されたことの重要性を強調。「賃上げ」に加えて「経営の安定」について書かれることは画期的であり、社会保障関係費の伸びの要因として、医療の「高度化」が公式に認められたことも初めてだと評した。その上で、これは日本医師会や病院団体、自民党医系議員らが医療機関の経営危機や、それを克服するための診療報酬・医療費の引き上げの必要性を政府や国民に訴えたことの大きな成果だとした。他方で、「目安対応」は完全になくなってはいないと警戒し、記載内容のプラス面以外への留意を求めた。
引き続き、「骨太方針2024」や「骨太方針2025」などを比較しながら医療提供体制の改革における▽かかりつけ医機能への言及▽医療DXでクラウドネイティブの明記▽日本維新の会の諸主張の盛り込み――などに論及した。特に、保険外併用療養費制度や民間保険の活用方針の拡大を問題視。万が一実行されれば、実質的な混合診療の拡大になると断じ、格差医療が生じる危険性に警鐘を鳴らした。その反面、個人負担が著しく増加することなどから簡単に実行されることは難しく、保険給付の範囲縮小の明記もないため、「すぐに混合診療のようなことが起こることはない」との見解を示した。
講演後は質疑応答が行われ、府医役員や同委員会委員が医療を巡る課題などを質問し、二木氏がそれらの背景や考えなどを伝えた。