TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

新北市醫師公會との交流会

府医ニュース

2025年8月20日 第3117号

日本と台湾 医療課題について意見交換

 台湾の新北市醫師公會(顔鴻順理事長)が7月12日夕刻、大阪市内のホテルで大阪府医師会役員と交流した。今回の交流は新北市醫師公會からの呼びかけで実現。当日は、共通する「皆保険」「フリーアクセス」の下で医療界を支える両会が、課題や取り組みの共有を通じ、友好を深めた。なお、新北市は台湾第2の都市であり、「醫師公會」は日本の「医師会」に相当。すべての医師に入会が義務付けられている。

 阪本栄副会長が進行を務め、はじめに両会の代表があいさつ。加納康至会長が歓迎の言葉を贈り、国境や制度の垣根を越えた交流が、互いの医療水準の向上につながることを祈念した。次いで、顔・同市醫師公會理事長が来阪の喜びを語り、ともに発展したいと力を込めた。
 意見交換では、冒頭、栗山隆信理事が、令和2年の世界のヘルスケア指標において「台湾が1位」とのデータを披露。新型コロナウイルス感染症流行初期、日本ではマスクが入手困難だった当時に台湾ではITを駆使した市場統制に成功していたと振り返った。その上で、台湾のロータリークラブからはN95マスクの提供を受けたとし、改めて謝意を表明した。これに対し顔理事長は、台湾のマスク事情を解説。購入にはIT登録を必須とすることで買い占めを防止し、政府レベルで生産ラインを確保したと説明した。一方で、新型コロナワクチンについては準備が遅れたとし、日本からのワクチン支援に対し感謝を述べた。

台湾の健康保険証は

 日本では近年マイナンバーカードが推進され、そこに銀行口座の紐づけや健康保険証、運転免許証などを一本化させる流れにある中、台湾の現状を問うた。
 台湾では、すべての人が保有する「身分証明書」への一本化はなされておらず、それぞれが独立した形で同じ個人番号を付与。健康保険証については、カードを差し込むだけで各医療機関での受診歴や重複投薬などが確認できると説示した。一本化する議論もなされたが、プライバシー保護の観点から世論の反対により却下された経過があると語った。その上で、「カードの紛失を考えると、別々が良いのでは」との意見が挙がり、府医役員らは大きく頷いた。

公定価格と経営問題

 加納会長は、日本の医療機関の経営危機に言及。医療が公定価格によってなされている影響が大きいと語り、台湾における医業経営の様子を質問した。
 台湾も日本と同様に政府が決めた価格に則っているが、30年にわたり改定のないものもあり、医療界が政府と戦っている状況と回答。一方で、台湾では8割の病院が黒字であり、積極的な保険外診療や治療以外の事業を含めた多角経営による収益増も伝えられた。日本のような混合診療に対する規制はないが、医師のモラルも大切にしたいと結んだ。

台湾の「直美」問題

 後藤浩之理事は、いわゆる「直美」に関して問題提起。あわせて、北村良夫副会長が、大阪府における最近の医療機関数の推移に触れ、地域医療を行う医療法人立に比べ、美容を扱っていると思われる一般社団法人立が急激に増加していると加えた。
 台湾も同様で、プライベートを重視して美容医療に進む傾向が見られるが、台湾の中だけでは患者数に限りがあるため、トップレベル以外は経営が難しいと明かした。それに対し日本では、レベルを問わず一定の利益が見込める状態と問題視。美容医療に進む医師は医師会に入会しないことが多く、医師会側から規制することも難しいと苦言を呈した。
 そのほか、▽社会保障費▽医薬品の流通事情▽救急外来▽医師数の調整――など活発な議論が繰り広げられた。今後の交流の進展を誓い、和やかな雰囲気の中で懇談が終了した。