
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
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本日休診
府医ニュース
2025年8月6日 第3116号
「それは保険が利きません」「この治療は制度上できません」。口をつくその一言が、医師を「守る者」から「断る者」に変えていく。疲弊の中で、使命感は自己矛盾にすり替わり、共感はコスト感覚に塗り替えられていく。
医療は「公共の福祉」のためにある。そう信じてきた医師達も、現場で直面するのは、制度と予算に縛られた日常だ。診療報酬の引き下げ、病床削減、早期退院の圧力。患者と向き合うはずの医療者が、制度の代弁者になっていく。長年続く医療費抑制政策は、医療の質だけでなく、医師の心をも蝕んでいる。
そこにデフレの影が重なった。今は不景気で起こるコストプッシュ・インフレ。縮小する経済の中で、医療もまた「限られた資源の奪い合い」と見なされている。社会の空気がギスギスし、排外的な言説がささやかれる。ある医師は口にした。「高齢者医療のムダを省き、自己負担をもっと増やせ」「他の世代を圧迫している」。
だが、医療者の側もまた〝追い詰められている〟。制度の矛盾を押し付けられ、社会の不満の矢面に立たされ、経営と効率に押し潰される日々。その中で「人を責めることでしか自分を保てない」瞬間が確かにあるのだろう。排外的な言葉の裏には、疲れ果てた心の叫びがある。
制度と経済の歪みが、医師の「共感する力」を静かに削っていく。患者の訴えは〝わがまま〟に、家族の不安は〝無理解〟に映るようになり、医療は命を救う現場から、〝予算内で裁く〟場へと変質する。
本来、医療とは人間の尊厳に向き合う営みのはずだった。だが今、制度は医師の感情すら設計しはじめている。この構造を変えなければ、失われるのは制度でも財源でもない。医師達の「人間としての心」である。
緊縮医療が医師の心を壊す。(真)