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消化器外科医は絶滅危惧種!?

府医ニュース

2025年7月30日 第3115号

 約40年前、消化器外科医になるべく研修をスタートした。その後、夜遅くまで病院で働き、緊急手術や患者急変で休日や夜間にしばしば呼び出され、その翌日も通常通り手術を行うという日々をつい数年前まで送ってきた。身体的・精神的な疲労はあったが、それが消化器外科医としての当然の仕事と思っていた。しかも、手術以外にも人工呼吸器管理などの集中治療や栄養管理、薬物療法、緩和ケアなど多くの領域に携わり、全身管理ができるという意味で消化器外科という仕事にほかにはない魅力を感じ、誇りをもっていた。
 しかし、時代は流れ、価値観が多様化する中、社会環境や経済環境、家庭環境も変化し、コスト・パフォーマンスやタイム・パフォーマンスが重要視されるようになってきた影響か、消化器外科を希望する医師が年々減少してきている。厚生労働省のデータでは、過去20年間に消化器・一般外科医の数が約20%減り、診療科の中で唯一減少している診療科である。このままこの傾向が続けば20年後に65歳以下の消化器外科学会会員数が50%減ると予測され(※1)、そうなれば消化器外科医が主に携わっているがん診療や救急診療に多大な影響が出る。これは由々しき問題である。
 なぜこれほどまでに消化器外科は避けられるのだろうか。シュバイツァー博士は「人生の目的は奉仕である」と言っているが、もはや奉仕の精神を前提とした働き方のままではいけないということである。患者を幸福にすることは医療の究極の目的だが、消化器外科医も自身の幸福のため、ワークライフバランスを考えた働き方と重労働に見合った評価(対価)を得るべきである。現状を放置すれば消化器外科の担い手はさらに減り、残された外科医の負担は増加するという悪循環を生み、同じ外科系でもいわゆる直美を選ぶ医師がますます増えていくかもしれない。この問題は各病院の努力というレベルではなく、学会や国主導で具体的な策を考えるべきで、今、保護対策を講じなければ消化器外科医は本当に絶滅危惧種になり、医療崩壊しかねない。
※1 黒田慎太郎ら 日本消化器外科学会雑誌2024;57:358-366.

箕面市立病院長
岡 義雄
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