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半生ウイルスワクチンの有効性に期待

府医ニュース

2025年7月30日 第3115号

東大新世代感染症センター 動物モデルで成功

 東京大学新世代感染症センター河岡義裕機構長らのグループは、半生コロナワクチンが新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に資する有力なワクチンプラットフォームの一つとなることが期待されると、令和7年5月14日、英国科学誌「Nature Communications」(オンライン版)に公表した。この「半生ウイルスワクチン」は、弱毒生ウイルスワクチンと異なり、ウイルスの複製能力が制限されているウイルスワクチンであり安全である。細胞内で、ウイルスタンパクやウイルスゲノムの合成は行われるが、感染性を持つ新たなウイルス粒子は形成されない。呼吸器のウイルス感染症のワクチンは、鼻腔粘膜での局所免疫誘導が感染防止につながるので、経鼻ワクチンが期待される。
 現在、コロナワクチンとしてはmRNAワクチンの筋注が大変有効で、世界中で使用されている。ウイルスの4つの蛋白質のうちスパイクタンパク(S蛋白質)の遺伝情報をコードしたmRNAをポリエチレングリコールでコーティングして作成されている。ワクチンを筋注することで、血清IgG抗体が産生され、重症化が防止される。しかし、新型コロナウイルスは抗原性が短期間で変遷するので、ワクチンを回避することが問題となっている。
 この「半生ウイルスワクチン」は、4つのウイルスタンパク(S・E・M・N蛋白質)のうち、E(エンベロープ)とM(メンブラン)蛋白質をコードする遺伝子を欠失させたウイルス(S・N)を作成しこれを動物(マウスとハムスター)にワクチンとして経鼻的に投与して有効性を検証した。①この半生ウイルスは感染性ウイルスの産生がないことが証明された(鼻腔、肺、脳でのウイルス増殖なし)。②マウスに半生ウイルスワクチン投与後4週間して誘導されるS蛋白特異的IgA抗体産生について評価した。ワクチン投与したマウスでは、野生株ウイルス感染後5日目の鼻腔洗浄液中のIgA抗体価は、コントロール群に比べて有意に高値であったが、mRNAワクチン接種群とは有意差はなかった。一方、肺胞洗浄液中のIgA抗体価は、mRNAワクチン接種群と比較しても有意に高値であった。③マウス肺におけるT細胞免疫応答について、S蛋白質を標的とするT細胞が有意に高値で、高用量のmRNAワクチン接種と同等であった。さらにmRNAワクチンでは誘導されない、N蛋白質に対するT細胞も有意に増加した。④変異株のデルタ株およびオミクロンXBB株に対する防御効果をハムスターで検証した。半生ウイルスワクチンを2回経鼻投与した個体に両株を暴露しても、肺には全個体でウイルスは検出されなかった。鼻腔においては、デルタ株は8個体中5体、オミクロンXBB株は8個体中4体でそれぞれ検出されたが、感染6日目までにすべての個体で鼻腔から消失した。
 以上から、半生ウイルスワクチンが感染防御、重症化予防、特に肺炎の予防に大変有効であることが示唆された。治験を経て、臨床で使用されることが望まれる。