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府医ニュース

2025年7月16日 第3114号

 ◆「私が生まれてきた訳は父と母とに出会うため」さだまさしさんの曲『いのちの理由』はこのフレーズで始まる。歌詞全体を噛み締めるほどに、自分を見失いかけた時、悲しく辛い時、人間関係に悩む時には心に染みるだろう。
 ◆しかし、生まれながらに両親がいない子どもにはどう響くだろうか。赤ちゃんポストに預けられた子どもの成長の先の心の機微が気にかかる。泉佐野市が全国で3例目、行政主導としては初めて赤ちゃんポストの設置を目指している。医療機関以外に身元を明かさない内密出産も目指す。
 ◆母子の命を守る理念と取り組みは尊いものだが難しさもある。障害児を含めた安易な預け入れを助長する。児童養護施設や里親での成長過程で、生みの親の匿名性は保証されるが、子どもの出自を知る権利は保障されていない。
 ◆出自を知ることは、自分が生まれてきた訳を知る、自己受容のための拠り所かもしれない。行政は、命とともに人生を救う、「しあわせになるために誰もが生まれてきたんだよ」まで果たして答えられるだろうか。(誠)