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時事
府医ニュース
2025年6月25日 第3112号
OTC類似薬の一部について、政府が令和8年度から公的医療保険の適用外とする方向で調整していることが、7年6月5日に各メディアより報道された。7年度の「骨太方針」に明記される予定であり、今後は対象品目の選定を進め、段階的に拡大していくことも視野に入れている。この方針は以前より日本維新の会が与党に対して申し入れていたものであるが、すでに議論は多くなされており、各団体間でも賛否が分かれている。
5年頃より「OTC類似薬」という名称が各種レポートやメディアで使用され始めている。平成2年頃からは、処方箋医薬品に近い効能を持ちながら処方箋なしで購入できる「スイッチOTC薬」が登場したが、一般にスイッチOTC薬よりも処方箋医薬品の方が薬効に優れているものが多く、処方箋医薬品が先行しOTC薬が後発であるという構造からも、両者の呼称を厳密に区別する必要がある。さもなければ、国民に誤った認識を与えかねない。
また、令和7年通常国会(第217回国会)に厚生労働省から提出された、いわゆる「薬機法」改正案には、処方箋医薬品に対して処方箋の取得を義務付ける内容が含まれている。これまで薬剤師が処方箋なしで医療用医薬品を販売する行為、いわゆる「零売」は、法的な明記がないまま慣行として行われてきたが、今後は「やむを得ない場合」に限定される。対象品目によっては、医薬品を必要とする患者が処方箋を必要としながらも保険適用外となり、特に慢性疾患などで長期的に薬を必要とする患者にとっては、自己負担額が大幅に増加する可能性がある。
特に医師会という職能団体として警鐘を鳴らすべき問題は、自己診断の危険性であろう。日常診療の実感としても、AIやインターネット情報を基に自己診断をした上で受診するケースが増えている。年齢層によって差はあるが、平成28年の英国のデータでは成人の51%が体調不良の際にネットで自己診断を行ったという報告もある。また、AIによる診断に関しては、令和6年の研究で80%以上の正答率が報告されており、医師の診断と遜色ないとする結果もある。
しかし、慢性的な咳嗽が肺結核であったり、軽度の心窩部痛が上部消化管の悪性腫瘍であったりするケースもあり、こうした疾患の診断には客観的な検査が不可欠である。罹患率は低いとしても、自己診断には明確な限界があり誤診に基づくセルフメディケーションによって感染拡大や病状の進行など深刻な影響を及ぼす可能性がある。
現在、国民負担率は昭和45年の公表開始時と比較して倍以上となっているが、その要因を人口減少や高齢化による医療費の増大に求め、国民の健康を犠牲にするような政策は決して許されるべきではない。日本維新の会が進めようとしている施策は、本当に医療を必要とする人々の負担を増やし、日常的に医療を必要としない多数派に保険料軽減という利益を与えるという「財政的ポピュリズム」の手法に他ならない。日本医師会には、今後もこのような欺瞞に対して断固として反対の立場を取り続けることを望む。(隆)