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時事

百日咳感染者5月時点で過去最高数更新

府医ニュース

2025年6月18日 第3111号

乳児を守るための対策を

 5月27日、国立健康危機管理研究機構による発表で第20週(5月12~18日)の百日咳報告数は2299人、累積1万9274人(うち大阪府1110人)となり、5月の時点で2019年(1万6785人)を上回り過去最高の流行となっている。COVID-19の感染対策中の22年は494人であった。今年に入り乳児死亡例が複数発生し危機的状況となり、日本小児科学会、日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会、予防接種推進専門協議会、日本医師会等関連学会から様々な注意喚起や提言がなされている。
 百日咳は激しい咳が長期間持続し全年齢層で感染の恐れがある。成人では軽い症状でも乳児では無呼吸発作等を合併し死亡の危険性があり、軽い風邪症状のカタル期から、激しい咳発作を伴う痙咳期、発作が治まる回復期含め咳症状が2~3カ月持続する。乳児では咳が無い場合もあり無呼吸発作、痙攣、肺炎、脳症等の合併リスクがあり、成人や小児から乳児への感染を防ぐことが重要となる。診断として過去の抗体検査から近年はLAMP法やPCR法などの核酸増幅法が推奨される。イムノクロマト法は利便性が高いが百日咳菌以外との交差反応の可能性等注意は必要である。
 治療はマクロライド系抗菌薬が第一選択薬となるが、近年は中国を中心とした諸外国でマクロライド耐性百日咳菌(MRBP)の出現と拡大が問題となっている。日本ではCOVID-19流行時期5年間はMRBPの検出報告は無かったが、24年以降の患者数増加から大阪含め9都道府県からMRBP検出事例が報告されている。代替薬としてST合剤やミノサイクリン、キノロン系抗菌薬が選択肢となり得るが、耐性の獲得や低出生体重児、新生児、妊婦等への使用禁忌等問題点は多い。そのため予防接種が最も重要な対策手段となる。生後2カ月以降の乳幼児期の定期接種では5種混合ワクチンが現在主流である(4種混合は製造販売終了予定)。0歳代に3回と1歳を超えての1回の追加接種の計4回接種であるが、それ以降百日咳に有効な定期接種は無く抗体が減少してくる幼児期から学童期、成人の感染者の報告が増えている。
 日本小児科学会では任意接種であるが就学前の3種混合ワクチン接種を、11~12歳の定期接種となっている2種混合ワクチンの代わりに3種混合ワクチンの接種を推奨している。ワクチン接種できずリスクの高い2カ月未満の乳児には母親からの移行抗体での重症化予防が効果的と考えられ、欧米諸国では妊娠後期の妊婦に3種混合ワクチン(Tdap)の接種が推奨されている。Tdap未承認の日本では代替案として妊婦に対する3種混合ワクチン(DTaP)の活用が考慮されるが、現時点では乳児百日咳の重症化予防効果は証明されていない。乳児の感染源の多くは家族や医療従事者であることから日本環境感染学会では妊婦や新生児と接触する医療関係者に対してDTaPの接種を推奨している。
 こうした状況下でDTaPの接種希望者が増加し、25年4月の需要は平時の5倍以上となったため安定供給が損なわれる可能性が生じ、5月7日からは製造会社からの限定出荷が行われているというジレンマが生じている。定期接種対象乳児への速やかな接種、百日咳疑い例への迅速な診断と治療、全数報告と疫学的解析の継続、ワクチンの安定供給が重要となる。(昌)