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時の話題

都道府県別診療報酬の是非

府医ニュース

2025年6月18日 第3111号

医師偏在対策としても悪手

 財務省は、令和6年11月13日、7年度予算編成に向けた建議を議論する財政制度等審議会・財政制度分科会に、診療報酬を活用した医師偏在対策の新たな措置を提案した。ある地域の特定の診療科の医療サービスが過剰と判断される場合に、診療報酬を減算する「特定過剰サービス」の導入が柱となる。診療所過剰地域における診療報酬1点当たりの単価を引き下げた分の公費節減効果を活用して医師不足地域における対策を強化する考えである。現在、診療所過剰地域と言われる地域も、急激な物価と人件費の上昇で、病院のみでなく診療所も経営危機に陥っている。診療所過剰地域の診療所を廃業に追いやっても、診療所不足地域の診療所増加にはつながらない。
 厚生労働省は、令和元年に二次医療圏別の外来医師偏在指標を公表した。全国平均は、105.8であるが上位3位はいずれも東京都で、区中央部192.3、区西部181.2、区西南部164.9である。下位3位は相双(福島県)48.1、小豆(香川県)48.4、宮古(岩手県)54.6である。最高と最低で約4倍の格差がある。
 6年6月28日、総務省が発表した「消費者物価地域差指数」では色々なことが分かる。10大費目別(食料、住居、光熱・水道、家具・家事用品、被服・履物、保健医療、交通・通信、教育、教養・娯楽、諸雑費)の物価水準(平均100)を都道府県別で比較すると、「住居」が最も都道府県間で格差が大きく、東京都127.2に対し石川県81.2で、1.57倍である。対して、最も格差が少ないのは「保健医療」で、高知県102.1に対し、宮崎県96.8で格差はわずか1.05倍である。保健医療は、診療報酬という全国一律の公的価格のため当然の結果で、都道府県間で格差がないことは大変有意義である。地域別の診療報酬(1点単価の変更)や混合診療・選定療養などの保険外併用療養費拡大政策を進めれば、「保健医療」も「住居」と同様に大きな都道府県格差を生むことは容易に想像できる。国民皆保険制度の縮小や崩壊は、同時に高額療養費制度の崩壊にもつながる。
 医療経営に関係が大きい物価指数を「保健医療」「住居」「光熱・水道」「賃金」で考える。受療率(人口10万人当たりの患者数)は、6年10月の厚労省のデータによれば、入院は全国平均(945)に対し、東京671、福島県954。外来は、全国平均(5850)に対し、東京5569、福島県5752。東京都と福島県で大きな差はない。しかし、東京都は「住居」127.2、「光熱・水道」97.2、「賃金」110.2に対し、福島県は「住居」91.1、「光熱・水道」110.3、「賃金」90.5である。「賃金」は6年度の「最低賃金時間額」全国一覧(全国平均1055円を100とする)から、東京都1163円(110.2)、福島県955円(90.5)を参考とした。以上から、診療所が多いとされる東京都では「住居」、つまりテナント料や固定資産税等が高く、最低賃金が全国平均の1割以上高い。それに比して福島県は「住居」(テナント料や固定資産税)は東京都より3割安く、賃金も東京都より2割安い。言い換えれば、東京都では、薄利多売で何とか経営している。それを1点9円と診療報酬を1割カットするのは、懲罰以外の何物でもない。東京都で生き残るのは、美容外科など自費診療のある医院だけになるだろう。
 診療所の少ない地域で開業するための公的な補助金等で対策するのが合理的と考えるが、罰金を財源とする考え方は理解できない。