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時事
府医ニュース
2025年5月21日 第3108号
令和7年4月23日、「財政制度分科会」が開催され財務省より資料が公開された。「持続可能な社会保障制度の構築」が主題であり、財政的視点からの制度の現状の報告と改革の方向性が記されている。以下に医療に関して、主たる論点を抜粋し要約する。
(Ⅰ)「我が国の医療保険制度の特徴と課題」では現状の医療体制の問題点として、国民皆保険の下での自由開業医制とフリーアクセス、診療報酬の出来高払い方式が、「患者側の医療情報の不足」「地域間、病院診療所間の医師偏在」「現役世代の保険料負担の増加」につながり、医療供給サイドの増加に応じて医療費増加を招きやすいと結論づけている。その上で改革案として以下(Ⅱ)~(Ⅳ)を挙げている。
(Ⅱ)「効率的な医療の提供体制」では、病院に関して患者数、急性期病床数、入院日数は減少傾向にあるものの主要国と比して、平均在院日数、人口当たり病床数は依然高水準であることが記されている。また医科診療所に関しては、患者数(コロナ禍後の受療率)、特に在宅医療の増加が指摘され、診療所勤務医数と病院勤務医数を比較した上で「病院勤務医から開業医へのシフトを起こすことのないよう、診療報酬体系の見直しを図るべき」という改革案が提示されている。さらに、医療費が消費者物価指数に対して伸びが大きいこと、2020年から22年にかけて診療所の利益率が8.8%、病院は5.0%と乖離があること、生活習慣病に関しては現状でも受診回数、算定回数が多く過剰診療であると評している。医師地域偏在対策として、診療報酬1点単価の引き下げとリフィル処方箋の強力な推進にも言及されている。
(Ⅲ)「保険給付範囲の見直し」に関しては国民皆保険を持続させるために国民皆保険制度に対して自助・共助の概念を持ち込み、OTC類似薬の保険適用のあり方の見直し、高額薬剤への対応として保険外併用療養費制度の制定、また病院に関しては入院中の光熱水費、室料に関してのさらなる自己負担増が提案されている。
(Ⅳ)「高齢化社会での負担の公平化」では高齢者世代の金融資産や貯蓄額に言及し、後期高齢者医療制度の自己負担増につながる制度改革を検討すべきとしている。
OECD加盟諸国における社会保障支出と国民負担率を比較し、上記一連の改革を行わない場合は著しく給付と負担のバランスが不均衡となる予測図が提示されている。
財務省は誤った財政経済施策を推し進め、日本経済を停滞させた現状に触れずに国民負担増にのみ焦点を当てた上で、「医療費亡国論」を再び強調し、高額療養費問題を自助・共助の意識問題とすり替え、病院・診療所間、医科・薬科事業者間、現役・高齢者世代間の分断を煽っている。これら資料に提示されたデータや根拠となる論文に関して恣意的な解析や誤解をしたものが多いことは、容易に見て取れる。医師会からはすでにデータ解析に関して反論が示されているものもあるが、稚拙な資料といえど世論がミスリーディングされないよう細心の注意を払う必要がある。(隆)