TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

時の話題

経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太2025)(案)に向けて

府医ニュース

2025年5月21日 第3108号

物価・賃金の上昇を踏まえた新たな財政フレームの策定が必要

 総務省が公表する消費者物価指数(総合指数:2020年基準100)の時系列の推移を見ると1994年は96で、2021年までの約27年間は94.5(12年)~100(21年)の間を緩やかに上下するデフレ状態で物価は安定し、賃金の上昇も緩やかであった。12年に発足した第二次安倍晋三内閣では、黒田東彦日本銀行総裁が就任し毎年2%の消費者物価指数の上昇を目指してQQE(量的・質的金融緩和)政策を進めたが、デフレ脱却は実現しなかった。19年の新型コロナウイルス感染症の世界的流行、22年のロシアのウクライナ侵攻、異常気象による農作物の不作、エネルギー価格の高騰、世界的なインフレ、円安による輸入品・原材料の物価高騰のため22年以降急速に日本国内でも物価上昇している。22年(102.3)、23年(105.6)、24年(110.8)となっている。このような急速な物価上昇には、現在の診療報酬体系では対応できず、直近1~2年で医療機関(特に病院)は経営的に危機に瀕している。
 厚生労働省の調査では、24年春の主要産業の賃上げ率は平均5.33%に対して、医療従事者のベースアップ評価料は24年度2.5%、25年度2.0%である。とても十分ではなく離職者も心配される状況である。このような物価上昇・賃上げの状況下、病院の6割が赤字経営になっているとして、日本病院協会など6つの病院団体と日本医師会は3月12日、物価高や賃上げに対応できるような、医療の公定価格である「診療報酬」の新たな仕組みづくりを訴えた。厚労省の福岡資麿大臣も病院の窮状は理解しているとして、支援金や補助金で対応しているが、まだまだ不十分である。
 「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太2024)」(抄)の中で予算編成(25~27年度の3年間)は、「これまでの歳出改革努力(社会保障費の実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめる)を継続するとともに、日本経済が新たなステージに入りつつある中で、経済・物価動向等に配慮しながら、各年度の予算編成において検討する」となっている。参議院議員の自見英子氏は、「配慮」だけでは不十分で、新たな財政フレームづくりが必要と訴えている。
 物価・賃金上昇が診療報酬にスライドされる仕組みは必要であると、厚労省も認めるところであるが、その仕組みづくりは大変困難であり、慎重を要する。考えられる対策案は、①1点10円を物価の変動に合わせる②補助金や支援金で対応する③目安対応(高齢化の伸び内におさめる)の廃止④医療費の総額に物価上昇分をスライドさせる。①は1点11円、12円にもなるが、デフレになれば9円、8円になる。都道府県で物価が異なれば、都道府県で1点単価が異なることにもなる。日医は③を主張している。国は、医療費の自然増に対して「制度改革・効率化」で歳出削減に努めている。適正化は必要であるが、数値目標は廃止すべきである。特に昨今の急激な物価上昇には、公定価格である診療報酬に対しては、特別な財政フレームが必要である。