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時事
府医ニュース
2025年5月7日 第3107号
肺炎は我が国における死因の第5位であり、死亡者の96%以上は65歳以上の高齢者である。肺炎球菌が原因として最多であり髄膜、血液、関節などの無菌部位から検出される侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)は致死的になり得る。令和6年9月4日、第27回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会が開催され高齢者に対する肺炎球菌ワクチンについて議論された。平成26年から23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が高齢者の定期接種ワクチンとなり10年間の経過措置が令和5年に終了し、現在は65歳の方と60~64歳で一定の基礎疾患がある方が対象となっている。
任意接種では、4年に沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15)が、6年からPCV20の適応が高齢者に拡大した。PPSVは莢膜多糖体が抗原として含まれ液性免疫を活性化するが、細胞性免疫は活性化せず免疫記憶は誘導されずブースター効果が期待できない。PCVは莢膜多糖体抗原にキャリアタンパクが結合し液性免疫と細胞性免疫の両方が活性化し、免疫記憶が誘導される。これまでの見解で有効性の観点ではPCVの方が高いと考えられ、多価PCVの開発でカバー率の増加があり評価が必要とされた。新型コロナ流行前において、IPD全体の年間累積罹患者数はPPSV23の定期接種化後も減少していなかった。
IPD由来肺炎球菌におけるワクチンで予防される血清型の割合は、5年でPPSV23:43.9%、PCV20:43.9%、PCV15:29.6%であった。費用対効果分析において、PPSV23を接種するプログラムと比較して、PCV15またはPCV20を接種するプログラムはいずれも費用対効果が高く、PCV20がより優れていた。米国、英国、カナダ、フランス、ドイツではすべての国でPCV20が推奨されている一方、PPSV23は米国、英国、カナダで推奨されており、米国とカナダでは、PPSV23を選択する場合はPCV15との連続接種が推奨されている。また、米国においてはPCV21も推奨されている。65歳における定期接種の実施率は40%前後であり、今後も啓発は必要とされる。分科会ではPCV15およびPCV20の有効性・安全性、費用対効果について、ファクトシートの作成を国立感染症研究所に依頼し、それを踏まえて再度議論を行うこととなった。
日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本ワクチン学会合同委員会による「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」(第6版:6年9月6日)ではPPSV23未接種者で66歳以上の者にはPPSV23任意接種、PCV20任意接種、PCV15接種後1~4年以内のPPSV23任意接種のいずれかを、PPSV23既接種者には5年以上の間隔でPPSV23任意接種、1年以上あけてPCV20任意接種、もしくは1年以上あけてPCV15接種後1~4年以内(前回PPSV23とは5年以上間隔)にPPSV23任意接種等提示され、特に基礎疾患、免疫不全のある患者はPCV15、PPSV23による連続接種またはPCV20の接種が推奨される。PCV20の安全性、免疫原性、血清型カバー率が実地でも明らかになりつつあり、今後の定期接種への移行がなされるか引き続いての検証と、接種率向上のためにワクチン効果と安全性について伝える医学的観点での接種勧奨が重要となる。(昌)