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医師・医療関係者のみなさまへ

大阪府警察医会 令和6年度 第2回 学術講演会

府医ニュース

2025年5月7日 第3107号

運転中の体調変化予防に向けて

 大阪府警察医会(藤江博会長)は2月1日夕刻、大阪市内のホテルで令和6年度第2回学術講演会を開催。会員ら約60人が聴講した。

 和田正彦氏(同医会副会長)の司会で始まり、まず藤江・同医会長があいさつ。本日のテーマである自動車運転者への療養指導を引き合いに、自身の運転についても知識を高めていきたいと述べた。次いで、来賓として宮川松剛・大阪府医師会副会長が登壇。東日本大震災での検案以来、同医会との関係性は一層深まっているとし、改めてその重要性や活動に敬意を表した。さらに第8次医療計画ではACP(アドバンス・ケア・プランニング)が重要なテーマに掲げられていると指摘。行政、警察、消防とも連携しながら多死社会を支えていきたいと語った。
 続いて、一杉(ひとすぎ)正仁氏(滋賀医科大学社会医学講座法医学部門教授)が、「プライマリケアにおける自動車運転者への療養指導――事故予防に向けて」と題して講演した。最初に自身の教室での取り組みを説明。犯罪・虐待の特定や心のケアを含めた災害医療訓練、県内でチャイルド・デス・レビューの全件実施などを挙げた。
 また、矯正施設で少年少女らと触れ合う中で、薬物使用が目を引くと強調。法務省の調査よりも実際は多いのではとの見解を示し、「救急医療現場では、薬物中毒も念頭に置くべき」と加えた。あわせて、入所者の多くは虐待を経験しているとし、罰則を強化するだけでは根本的な解決につながらないと力を込めた。
 運転免許証の取得に際しては、2001年の道路交通法改正で障害者に係る欠格事由が廃止された。視力・聴力による一定の制限はあるものの、疾患のコントロールができていれば医師の判断で自動車の運転は可能だ。一方で、一杉氏は「体調変化に起因する事故はまれではない」と警鐘を鳴らす。海外では交通死亡事故の約1割は疾患が原因との報告もあり、大阪・梅田で発生した車暴走事故(運転者が直前に大動脈解離を発症し死亡)は記憶に新しいと振り返った。
 運転中に糖尿病による低血糖を経験した割合は35%だったというデータも紹介しながら、「適切なコントロール」の重要性を説いた。そして、医師にはアドヒアランス(患者が積極的に治療を受け入れる姿勢)を高め、一人ひとりに合った適切な服薬治療を行うことが求められると締めくくった。