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月と猫

府医ニュース

2025年4月16日 第3105号

おぼろ月
  猫に門限
    なかりけり
中村 碧泉

 朧(おぼろ)月は、霧やもやなどに包まれ、ほのかにかすんで見える春の夜の月。暖かくなり湿度の高い空に浮かぶ風情は、凍てつく冬の冴え冴えとした月と違い、柔らかな印象で、春が来たなあと感じる。
 ただ、この美しい景色には、黄砂や花粉が影響していると聞くと、複雑だ。この春は黄砂の飛来量が例年より多いと聞く。
 黄砂を表す霾(つちふる)は、古くは、中国殷の甲骨文字での記述が遺っている。杜甫の七言律詩「鄭駙馬宅宴洞中」には「雲端(うんたん)に霾(つちふ)る」という一節があり、雲の端から土まじりの風が吹き、あたり一面が暗い様子を詠んでいるが、松尾芭蕉は「奥の細道」で「雲端につちふる心地して」と引用している。大正時代以降は、春の季語として用いられている。
 春の風物詩としては美しいのだが、黄砂自体へのアレルギーや、花粉とのアジュバント効果での症状悪化、花粉爆発の原因となるなど、困りものである。
花粉症
  運び来し猫
      百閒忌
高橋 のり子

 冒頭の句で、暖かな春の夜遊びから戻った猫をもふもふしていたら、家族みんなで大きなくしゃみをする、作者は異なるが、そんなイメージが浮かぶ。猫を愛する内田百閒の忌日は4月20日だ。
 いや、昨今は、猫は室内飼いが基本である。うちの猫達も外を知らない。
 猫の夜遊びも、黄砂も、朧月を愛でる夜も、時代とともに様変わりしているのだ。(颯)

(注)環境省:家庭動物等の飼養及び保管に関する基準の「第5 猫の飼養及び保管に関する基準」より